能のないやつ
修正終了済み
日も落ち、薄暗くなった道をノアはトコトコと歩いていた。
周りには熱石と言われる衝撃を与えると薄く光る鉱石の入ったランプがそれぞれの家の玄関に一つ備え付けられている。
そのおかげもあってか全く周りが見えないという程でもない。
人は殆ど家に帰り、人が集まっているところと言えば居酒屋ぐらいだ。
「流石にこの暗さならローブを着なくても大丈夫か」
昼の暑さも嘘だったかのように消え去り、今は涼しい風が吹いている。
それにしてもこの服は人に見られると少し恥ずかしい。あんなにも魔王様とメラさんに言ったのになんでくれた服がこれなんだろう?
服をくれたのは嬉しかったよ……でもスカートは嫌だって言ったじゃん!
昼間はローブに隠れていたおかげで人目を気にしなかったけどローブを脱いだ瞬間恥ずかしくなった。
前世ではスカートをあまり着なかった。殆どがズボン類だ。
色は自分の好きな黒でとても気に入ってる。
デザインもそれなりに気に入っている。
でもスカートなのは気に入らない。
まあ……意外と動きやすいし我慢すれば大丈夫だけど……。
そんな私の目の前に男が数人近寄ってきた。
見る感じそれなりに装備が整っている冒険者の風貌だ。
「子供がこんな夜道に一人で歩いてちゃ危険だぜ?」
一人の男がそう言うと後ろの男たちがケラケラと笑った。
「俺たちが家に送ってやろうか?」
「邪魔、どいて」
「おいおい、釣れないこと言うなよ。俺が親切に送ってやるって言ってんだよ」
「親切? なら私は今から行かなきゃ行けないところがあるからそこをどいて」
「良いからこいって!」
男はノアの細い手首を力ずよく掴んだ。
ノアの手首を掴んだ男は下卑た笑みを浮かべながら私の手を強く引いた。
「━━━━なせ」
「あ? なんか言ったか?」
「手を話せと言った。お前たちのような汚い男は嫌い。離さなければ痛い目を見せる」
男たちは一瞬顔を合わせ、腹を抱えて笑った。
これが屋台のおじさんと宿のおばさんが言っていた冒険者ギルドを追放されたチンピラと言うわけか。
どうやら私の考えていたチンピラ以上のクソ野郎だったようだ。
「てめぇのようなガキに何が出来るって言うんだよ! さっさと来い!」
「……分かった」
男は私の手首を掴んだまま暗い裏路地へ入っていった。
路地裏は臭く、ネズミや犬のような死骸が至る所にあった。
「さぁ脱げ」
男はまた下卑た笑みを浮かべながら私に向かってそう言ってきた。後ろの男たちも同じような下卑た笑みを浮かべてい?
「嫌だけど」
「てめぇ! 俺らは優しいから親切に言ってんのによぉ! さっさと脱ぎやがれ! でなきゃ痛い目を見ることになるぞ!」
こいつらの目的は大体分かっていた。だからこそ私はこいつらの言うことを素直に聞いたのだ。
そしてここは人目もつかない路地裏だ。つまりこいつらに何をしても構わないというわけだ。
「さっさと……え?」
私の服に手を伸ばした男の手首を私は一瞬にして作り出した氷の短刀で斬り捨てた。
斬り捨てられた男の手首は血を撒き散らしながら地面に落ちて行った。
男は何が起こったかしばらく分からずにいたが、手首を斬られたことによって起こる激痛によってようやく理解したようだ。
一瞬にして手首を斬られた事を。
「がぁぁ!!! 痛てぇ! 痛てぇよ!!」
「てめぇ! 何しやがる!」
「お、お前ら! そいつを押さえろ! 辱めを与えた後にじっくり殺してやる!!」
「は、はい!」
結局は仲間だよりか。
このような状態は私が袋のネズミではない。袋のネズミなのはお前たちチンピラの方だ。
数にして七人……余裕だ。
「おらっ!」
上裸の男が殴りかかってきた。あくまで私を殺さないように素手で捕まえようとしているようだ。
つまりあの手首を切り落とした男がこいつらのリーダーだということか。
人間族よりも遥かに身体能力の高い魔族を素手で捕らえようなんて馬鹿者でしかない。
「がっ!!」
拳を躱し、脇腹を深く短刀で切りつけた。切り裂かれた脇腹からは腸やらなんやらが飛び出し、男は白目を剥きながらドサリと地面に倒れた。
残り六人……いや、さっき手首を斬った男はカウントしなくてもいいか。
あれはどうせ当分動けないだろうし。
「『氷魔法』"氷結地帯"」
ここの土は少しばかり湿っている。それはここが昼であっても陽の光が届いていないということだ。
おかげで『氷魔法』をスムーズに発動することが出来た。
『氷魔法』"氷結地帯"を発動させたことによりチンピラ共の足は地面と凍り、どうにか抜け出そうとそれぞれ足掻いていた。
「な、何なんだこれは!」
「見りゃ分かんだろ! こりゃあ氷魔法だ! だがこんな魔法初めて見たぞ!」
「ど、どうすれば!」
「知るか! 自力で何とかしろ!」
片目に傷のある男は『火魔法』を発動し少しずつ私の作り出した氷を溶かしていった。だが溶かすまでに時間がかかることには変わりがない。一人ずつ確実に仕留めていけばそれで終わりだ。
せっかくの人間界での生活初日を邪魔した罪をここで払ってもらおう。
「ま、待てっ! がぁッ!!」
「お前たちのような奴らは周りの人に迷惑をかけることしか能がない」
赤い服を着た男の首を切り飛ばす。
初めて人を殺したというのに何も思わない。もう私の心は異世界の色に染まってしまったのかな。
「ぐぁッ!」
近くで手に持っていたナイフで足の氷を割ろうと足掻いていた男の額に向かって短刀を投げた。
短刀は綺麗に額のど真ん中に刺さり、そのまま男は絶命した。
「だけど能がないお前たちでも人様の役に立つ事が出来る。それはなんだと思う?」
私は奥で完全に腰を抜かした男に向かって問いかけた。
男は恐怖で何も喋れない。
ただノアを震えながら、涙を流しながら見ているだけだ。
ノアは"氷結地帯"によって凍った地面から氷の槍を恐怖で固まる男に向かって突き刺した。
突き刺された男の血は氷の槍を伝って氷の地面を赤く染めた。
「それは戦奴隷になる事だよ。それならゴミなお前たちでも立派に人の役にたてる」
「な、なんなんだよお前は! 俺らになんの恨みがあるんだよ!」
一番最初に手首を斬った男がそう私に吠えてきた。
よくあの激痛で気を保てたな。それは大いに賞賛すべきところだ。
「恨み? そんなものこれっぽっちもないよ。強いて言うなら私の邪魔をしたから……かな?」
「たったそれだけの理由で俺の仲間を……」
「たったそれだけ? お前たちはここら辺に住む人達から害悪としか見られていないんだよ。いっそここで果てた方が世のため人のためだよ」
こんな人達がいるからダメなんだ。こういう人達は大切なものを失ってから初めて自分が間違っていることに気づく。だけどそれはもう手遅れであり、もう遅い事なのだ。
人は後悔があってこそ成長する。でもこの人達のような後悔はどうしようもない。自分の欲に忠実に従って生きてきてしまった。
それがこの人達をダメにしてしまったのだ。
「じゃあね。来世は立派に生きるんだよ」
短刀を男の額に向かって突き刺そうと振り下ろしたが、何者かによって振り下ろそうとした手首を掴まれそれは阻止されてしまった。
「誰? この人達の仲間?」
「それは違うと言っておこうかな。この者達が悪な者だとしたら俺は善なる者だ」
耳の長い男はにっこりと微笑んだ。少し胡散臭いと思ったがその目からは嘘をついているような気はしなかった。
「手を離して」
「おおっと! すまないね」
「それでなんで止めたの?」
「う~ん。それはこの男たちから色々と聞きたいことがあったからだよ」
「……じゃあ後は頑張って。私はやらなくちゃいけないことがあるから」
あとはこの耳の長い人に任せてしまえと思ったノアはギルドの依頼である薬草を取りに行くためその場を立ち去ることにした。
「そのやらなくてはいけないことって依頼かな?」
その問いに私は足を止めた。
「なんでそう思ったの?」
「私はね、これでもギルド長なんだよ。今日面白そうな子がギルドに加入したから気になって後をつけてしまった次第でね」
「全部は信じないけど仮にもギルド長なんでしょ? 趣味が悪すぎるよ」
「はははっ、そう言われては何も言えないね。でも安心しなよ。君の正体に関しては誰にも言わないし、この事についても誰にも言わない。寧ろこいつらをこんな風にしてくれて助かったよ」
「嘘。こんな奴ら一人でどうにか出来たはず」
この人からは強者の覇気を感じる。
それにこの人は魔王様直轄の幹部達と同等かそれ以上の力を持っているだろう。人間ではないのだろうけど強者だという事には変わりはない。
「君は『鑑定(人)』を持っていないのによく分かったね。確かにそうだ。私はこんな奴らに遅れをとるわけがない。でも安心しなよ。私は君に害する者ではないからね。分かりやすくいえば見守る者って所かな?」
「……あなたは私の正体を本当に知ってるの?」
「知っているとも」
「……分かってるなら聞くけどあなたは魔王様の敵?」
「だから見守る者だって。君のような将来有望な者と出会えて嬉しい限りだ」
「……まあいいや。じゃあね」
「あっ! 最後に君の名前を教えてよ。私の名前はシースルーだよ。君の名前は?」
「そんなものギルドの名簿かなんかに書いてあるんじゃないの?」
「確かに書いてあるけどどうしても君の口から聞きたいんだ」
言おうか言わないか迷ったが、後でめんどくさい事になりそうだったので大人しく答えることにした。
このシースルーという者が本当にギルド長ならば後々の昇格に関わってくるかもしれない。だからここは下手な手は打たない方がいいだろう。
「……ノア」
「良い名だ。これからよろしくね。冒険者ノア」
「……」
ノアは何も言わずにその場を立ち去った。それはあまりこの人と関わりたくなかったのと、早く薬草の依頼を完了したかったからだ。
はぁ~……めんどくさい人に目をつけられたなぁ。
心の中で深いため息をしたノアは重い足取りで門の方に向かっていった。




