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え……陽の光……

修正終了済み

私と魔王様が"転移"した場所は若々しい緑が溢れる森の中だった。

これならば人目も気にすることがない。


「この国は奴隷を禁止しているが油断をしてはダメだ。どの国にも闇がある」


「分かった」


「この森を抜けた先にある道を右方向に向かって行けば国まで続いている。後これを持っていけ」


魔王はノアの拳程の大きさの小袋と黒のフード付きのローブを渡した。

その小袋の口を開て中身を出してみるとジャラリと金貨が十枚程出てきた。


「そのくらいあれば十分だろう。では頑張れよ」


「あ……ちょっと待っーー」


言い切る前に魔王は"転移"で魔王城に帰ってしまった。


全く魔王様は……。


「まぁ分からないところはそこら辺の人にでも聞けばいいか」


少し変な人に見られるかもしれないけどただの世間知らずの子だっていう設定にしとけば良いか。


「取り敢えず道に出ようかな」


この森で少しばかりゆっくりするのも良いけど早く私は人間の食べ物を食べてみたい。

その為に人間界に来たのだからね。

勿論冒険者になるのも目的だけどね。


森を抜け、道に出ると目の前には広々とした草原が広がっていた。草原は風が吹く度ザワザワと波のように揺れていた。


それにしても肌がジンジンと痛い。

まるで日焼けをしたみたいだ。

私はジーっと赤くなった肌を見つめた。すると私はある事を思い出した。

それは吸血鬼が陽の光に弱いという伝承だ。でも可笑しい、暗い森で見つけたあの楽園では陽の光に当たっても全然大したこと無かった。


「……何でダメなの?」


不思議でならない。もしかして魔界と人間界の陽の光は違うのかな?

でも地球と同じ原理ならばどこに行っても太陽の光は同じはずだ。

だから魔王様はお金と一緒にローブをくれたのか。

どうせメラさんにでも言われたんだろうな。


「……有難く使わせてもらうけど」


私は黒のローブを羽織った。これならば陽の光が肌に当たることが無い。


それから私は魔王様の言われた通り道を右に向かって歩き始めた。

季節的に地球の夏に近いためものすごくローブの中が蒸して暑い。

魔界ではそれほど暑くなかったのにな。これでは早く国につかなければ熱中症かなんかでバタリと倒れてしまう。

そんな事を思いながらフラフラとした足取りでひたすら国に向かって歩いた。

すると前方にそれはそれは大きい壁が姿を表した。


「あの漫画の将軍が居た帝国みたいな壁だなぁ」


何の漫画の将軍とは言わないがそれ程までに大きな壁だ。

その大きな壁の下の方には馬車がスッポリ通りそうな程のごつい鉄格子がついた門があった。

そこには数人の鎧を着た兵士が立っており、私が門に近づくと兵士達は少し険しい表情になった。

その原因は私が着ている黒のローブだろう。このローブはフード付きで色は黒いので他から見れば怪しさ満点だ。


「そこの者! 止まれ!」


一人の兵士がそう私に向かって言った。

明らかに警戒心を持たれている。


「フードを取って顔を見せろ」


「……」


この日の下で私に肌を晒せと? 何とも空気の読めない兵士だ。

空気が読めないのは当たり前なのかもしれないけど見ず知らずの人に上から目線でそう言われると無性にイラついてくる。

はぁ~……こんな上から目線の人の言う事をあまり聞きたくはないのだけど怪しまれないためにもしょうがないか。

私はフードをパサリと脱いだ。そのせいで肌が陽の光に当たってヒリヒリと痛い。


「ふむ……何処かの令嬢か?」


「何でそうなるの? 令嬢が一人で来るわけないじゃん」


「確かにそうだな。だがここまで可愛らしい顔の女を見るのは初めてだ。どうだ? この後一杯付き合ってくれよ」


このブ男は私を口説いているつもりなのか?だとしたら一度死んだ方がいいのではないか?


一発殴ってやろうと思った矢先、もう一人の兵士が私を口説いてきた男の肩に手を置いて「やめろ、そんな事して恥ずかしくはないのか」と言った。

ブ男はチッ!と舌打ちをしながら私から離れていった。


「すまなかったね。怖かったかい?」


「別に、あのブ男を一発殴らなくて済んだ」


「ははは、ぽやぽやした感じなのに気が強いね」


一体ぽやぽやとはどういう意味なのかは不明だが、この人自体はとても優しそうだ。


「すまないが証明書を見せてくれないか? これでも一応仕事なんだ」


あー……魔王様に証明書の件を聞くの忘れた。

美味しい食べ物と冒険者になってみたいという願望のせいですっかり忘れていたな。

やれやれ、うっかりな所は転生前から同じか。


「……証明書は持ってない」


「では何処からやって来た者だ?」


この問いはどう答えたらいいものか……。

何処の者だ?と聞かれたら魔界にある魔王城からやって来ましたと言う他ないのだがここは人間界であり魔界では無い。魔界ならば「はははっ」と「何嘘ついてんだよ」と軽く笑われるぐらいだが人間界ではそうもいかない。最悪引っ捕らえられて奴隷にされるか処刑だ。

ここはなるべくそれっぽい村の名前を考えて答えるしかないか。

森の奥地にある村と言ってしまえば「そんな村あるのか」ぐらいには思ってくれるだろう。


「マ・オウジョー村」


「……マ・オウジョー村? 変な名前だし聞いたことがないな」


「そう?」


ノアはそれっぽい良い村の名前を考えついたと思っているようだが他人から見れば明らかに変な村名だった。

何故ノアがこのような変な名前の村名にしたのかと言うと、それは嘘をつけないからだ。

ノアは良くも悪くも嘘をつけないため前世では時折空気を壊してしまうことがあった。

そして、嘘をつけないということは口を閉じるか正直に話すしかない。だが口を閉じれば兵士の人に怪しまれてしまう。ならば口を開いてそれっぽい事を言えばいいのだ。

だがノアに備わるそのセンスはほぼ皆無だった。

こと名前をつけるものに関してはノアのネーミングセンスは悲惨なほどであり、前世の美術の時間に良い作品が出来てもネーミングセンスが悪くよく友達や先生などに「変えた方が良いんじゃないかな?」と言われていた。

だが当人のノアはとても良い名だと思っている為頑なに皆の意見を聞き入れることは無かった。

おかげで兵士はノアと同じく首を傾げるばかりだ。


「それはどこら辺にあるんだ?」


「暗いある森」


「具体的に言ってくれ。暗いある森じゃ分からない」


「むっ……森の名前が分からないからしょうがないじゃん」


「分からないんじゃしょうがないな。今回は通してやるから今度この国に来た時は森の名前を親に聞いてこいよ。ほら、これが仮証明書だ」


兵士の人は私の頭をポンポンと軽く叩いた。そして腰にぶら下げてあった袋から薄い鉄板出できたプーレトを私に手渡した。

そこには「仮証明書」としか書いていない。

これは何?と訴えるかのように再度兵士を見ると、兵士の人は「それは仮証明書って言って、この国にいる間それがお嬢ちゃんの証明書になるんだよ。でも仮だから商業ギルドとか冒険者ギルド、魔法ギルド、暗殺ギルドとかで本物の証明書を発行してね。一応忠告しておくけど暗殺ギルドだけには行かない方がいいよ」と丁寧に教えてくれた。


「ありがとう」


「気をつけろよ」


最初から最後まで優しい人だった。あのブ男とは段違いだ。


門を通るとそこはガヤガヤと賑わう人達がにっこりとした表情でとても楽しそうに買い物等をしていた。

中には美味しそうな食べ物が置いてある店もあったが、今は後回しにする事にした。

まずは証明書を作らなければダメだ。

魔族という身分を偽らなければいけない為早めのうちに証明書を作らなければ後々めんどい事になる。

こういったことは最初が肝心なのだ。


それから私はゆっくりとだが町並みを見ながら冒険者ギルドを探していた。

何故冒険者ギルドを選んだかと言うと、元々冒険者になりたいという願望もあったからだ。

だが私の持つスキルは暗殺系のものが割と多いい。

それならば暗殺ギルドに行った方が自分の利点を行かせるのではないか?と思うかもしれない。実際私も最初は「暗殺ギルドがあるの? 滅茶苦茶私に向いてるじゃん」と思っていたがよくよく考えてみれば暗殺を失敗して捕まった者の運命は死しかないような気がしてきた。

それはリスクが高すぎる。

いくら魔族に劣る人間であっても未だ発展途上である私を凌ぐ人間はいるだろう。もしそのような者が私を捕まえに来たらもう諦めるしかないよね。

だからここはなるべく安心安全の冒険者ギルドにしたのだ。

他にも商業ギルドやら魔法ギルドやらがあるようだけどそれは後だ。

特に商業ギルドには興味が一切引かれないので後も無い。魔法ギルドは少しばかりワクワクするけど今は流しておく。


「多分ここがそうだよね?」


私は剣と盾が交差するように描かれている看板が吊り下げられている建物の前で足を止めた。

建物は荒野にありそうなバーのような感じだ。

いざ中に入ってみると、中は丸テーブルと長テーブルが数個と備え付けの椅子が置いてあるだけで特にこれと言って目立ったものは無い。そして目の前のカウンターには整った正装を着た受付嬢のような人が二人いた。

そこに向かって歩く度に床板がギシギシと不安な音を立てる。


「バルジアナ王国ギルド支部にようこそ。本日はどう言ったご用件でしょうか?」


受付嬢の一人が私にそう問いかけた。


「冒険者になりたい」


私が冒険者になりたいと言うと受付嬢の人は眉を潜めた。

本で読んだ知識が合っているのならば証明書は冒険者ギルドのカードだけで大丈夫なはずだ。

だからわざわざ証明書を作る必要は無い。


「本当に冒険者になりたいのですか?」


「冒険者になる為に来た。それに冒険者になるのに年齢はあまり関係ないんでしょ?」


「確かにそうですが……」


「こらっ! シャキッとしなさい! 私たちの役目を忘れたの!」


隣にいたもう一人の受付嬢が突然私の対応をしていた受付嬢に向かって怒った。

私の対応をしている受付嬢はビクッ!と体が震えたが、すぐさま仕事の顔になった。


「先程は見苦しい所をお見せしてすみません……」


「大丈夫。気にしてない」


「すみません……。では冒険者登録をしますのでこの用紙の問に答えてください。文字が書けないのであれば代筆も可能ですが……

どうしますか?」


「書けるから大丈夫」


この世界の言葉は完全にマスターしている。何せ私には『言語理解』という素晴らしいスキルを持っているからだ。これさえあればどこに行ってもどんな言葉でも文字でも直ぐに書けるようになる。

うん、素晴らしいスキルだ。


私は受付嬢の人から用紙とペンを受け取った後、近くの椅子に座った。目の前には年期の入った丸テーブルが置いてある。

受付嬢の人から貰った用紙には名前から年齢、職業、出身地、得意武器、得意魔法、等の問いが書かれていた。


名前はノアで年齢は十三、職業はなしで出身地がマ・オウジョー村、得意武器は今の所短刀で、得意な魔法は『氷魔法』だ。


ここで少しばかり疑問に思うかもしれない。

それは私の現在の年齢についてだ。

今の私の年齢は十三。これは明らかにおかしなことだ。魔窟にいた時の年齢は正確には覚えていないが一桁だった筈だ。なのに今の年齢は小学六年生か中学一年生ぐらいある。

魔王様が「ノアも十三なのだしもう少し御めかししてみたらどうだ?」と言われた時は一体何を言っているんだと思ったよ。

でも原因は魔王様から教えて貰ったし、この年齢の方が何かと都合が良いので案外嬉しく思った。実際ヘル・バーバード戦の時から何かおかしいなと薄々思っていたがまさかここまで成長するとは思わなかったけどね。

成長したと言っても背が少し伸びたぐらいで後は悲しいほどに成長は無かった。私としてはもう少し胸とかあってもいいと思ったんだけどなぁ。

まぁこればかりはしょうがないね。


さて、そんな事はさて置きさっさと書かなくちゃね。


その後私はパパっと用紙の問に答え、それを持って先程の受付嬢に用紙を渡した。















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