運命
修正終了済み
「初めまして、私はノア。これからよろしく」
それを聞いた幹部等は石化の魔眼にでも当てられたかのように固まった。
ここにいる者達はメラ以外全員『鑑定(人)』を持っている。つまり幹部等は部屋に入ってきたノアという白髪紅目の少女を即座に鑑定したのだ。
そしてそのステータスを見た幹部等は「これは……ヤバイ」と思ったのだ。
「ん? どうしたんだお前等?」
「これはあれですね。予想以上にノア様のステータスが高かったのに驚いて思考が停止しているのでしょう」
「そんなに私のステータスって高いの?」
「自分のステータスを見てないのか?」
「うん。今度もう一度強い敵に勝った時に見ようかなと思ってヘル・バーバード戦以降見てない」
「……犯人はお前か」
「え? 犯人?」
「いや、何でもない。それよりもお前等さっさと何か話したらどうだ? 話が進まん」
ここまで驚かれると気になって自身のステータスを見たくなってしまうではないか。
それにしても色々人達がいるものだ。頭に角が一本生えている者や腕が鱗で覆われている者、腕が四本あり目も四つある者、全身漆黒の鎧で身を包んだ者、どれも地球上ではまず御目にかかれない異世界ならではの人達だ。
流石はファンタジーな世界だ。私の期待を裏切らない。
「あの人達強い」
「ああ、強いぞ。この南の区域でトップを張っていた種族長やら戦士やらを集めたのだからな」
「皆レベルってどのくらいなの?」
「レベルだと? またおかしなことを聞いてきたな。あまり人に言うものでは無いが俺の身内になったのだし少しばかり教えてやろう。まあ教えると言っても大体だがな。奴等は平均で三百辺りだ。因みに俺のレベルは五百以上だ」
「……それ魔物に例えたらどのくらいのランク?」
魔王は「俺達のレベルを魔物のランクで表せなんて何を考えているんだ?」と思ったがノアに何でも教えてあげると言った為仕方ないと思い答えることにした。
「幹部等は大体SSランクの魔物と同等かそれ以上だ。俺はその上であるSSSランクの魔物と同等の力を持っている」
「Sランクのレベルから一気に掛け離れてない?」
「それはそうだろ? SSSランク以上の魔物は《覚醒種》と呼ばれている災厄を呼ぶ邪神に限りなく等しい存在だ」
《覚醒種》……ね。
強い奴と戦いたいけど流石にSSSランク以上の魔物には喧嘩を売らないでおこうかな。
レベル三百の魔物なんて悪夢に等しいものだ。
今の私では明らかに瞬殺される未来しか見えないな。
「まあ、それは一旦置いて置くとして、ノアは強い者と戦いたいのだろう?」
「そうだけど?」
「ならばあそこにいるリファという女性の下につくつもりはないか?」
魔王様が指差した先には苦笑いを浮かべる女性の姿があった。
シルエットで見ればただの人間に見えるけど額に目がもう一つあり、少しばかり肌が青白い。
日本の妖怪図鑑に出てきそうな感じの魔族だ。
「どうして?」
「それがな……リファの軍の小隊長がつい先日戦争で討ち取られてしまったんだ。一応新しい小隊長候補がいるのだがどうにもその者は結構な脳筋らしい。だから頭が回り、ある程度戦える者としてノアをリファの軍の小隊長にしようかと思ったのだが……どうだ? やってみたいか?」
私を呼んだのはそういう訳か。
あまりリーダーっぽい事はしたくはないけど小隊長になればそれなりに強い奴と戦えるはずだ。
面白そうだしやってみようかな。
それにしても結構な脳筋の人ってどんな人なんだろう?
ヤの付く職業を生業としている人じゃないといいな。
「いいよ。面白そう」
「おお! やってくれるか! ではリファよ、ノアのことは頼んだぞ!」
「は、はい……」
「……あの人大丈夫?」
「大丈夫だ。リファは魔王軍トップクラスの頭脳を持っている者だからな」
「……」
ならば大丈夫なのだろうけど……どうしてワナワナと震えているのだろう?
もしかして私が軍に入ることに対して反対意見だったのかな?
それなのに上司である魔王様に頼まれて断りたくても断れなかったみたいな感じかな。
まぁ決まってしまったことなのだからこればかりはしょうがない。
これはもうただただ頑張ってとしか言い様がないね。
私はリファの所までトコトコと歩いて行き、「これからよろしく」と一言言った。
それに対してリファは一瞬ビクッ!となったが、「こ、こちらこそよろしく」と返してくれた。
何故だか言葉がたどたどしいけど私が気にするようなものでは無いので普通に無視をした。
「これでリファの軍は大丈夫として、後はこれから起こりうるだろう戦争の話についてなのだが今日はあまり時間が取れんので後はメラに任せる」
「畏まりました」
「私は書庫に戻るね」
「分かった。では後をよろしくな」
「はい」
ノアと魔王はそう言って会議室を出ていった。
後に残ったのは呆然としている幹部等と、「はぁ〜」と深い溜息をつくメラだった。
「メラさんよ……あいつは何者だ?」
「何者だ? と言われましても魔王様のお子さんですとしか言い様がありません」
「いくら主の子でもあれは規格外だろ?」
「そうですか? 私は鑑定系のスキルを持っていないのでわかりかねますが、皆さんの反応からして嘸かし凄ごいステータスなんでしょうね」
「凄ごいってもんじゃねぇよ。ありゃあ化け物だ。下手に手ぇ出したら無傷じゃすまねぇぞ」
「手を出す予定があったの?」
メラにガルドが話をしていると横からリファが口を挟んできた。
ガルドはメラと話しているのに横から口を挟まれ、ついでにイラッと来るような事を言われた為、こめかみに青筋が浮かんだ。
「俺は今メラと話しているんだ! 横から口を挟むんじゃねぁよ!」
「あら? 別にそのくらい良いじゃない。あの子について気になっているのは何もあなただけじゃないのよ」
「チッ!」
「……前から思っていましたがリファ様とガルド様以外誰も喋りませんよね? それは何故ですか?」
メラは秘書になった頃から気になっていたことを唐突に聞いた?
メラの言う通りリファとガルド以外誰も喋ろうとしない。これは魔王も不思議に思っていることなのだが、いつもいつも聞くタイミングを逃しているためもう諦めていた。
だがメラは聞きたいことはしっかりと聞く性分なのでこの際ズバッと言って解決しようと思った。
「さぁな、そんな事これっぽっちも考えたことがねぇ」
「別に気にしなくても良いんじゃない? いつもこんな感じなんだし」
そんな事をリファとガルドが言っていると額から一本角が生えてる背の低い魔族が小さく喋った。
「僕達が喋らなくてもリファとガルドが勝手に喋ってくれるので皆黙っているんだと思います」
「なるほど……そういう事ですか」
「はい、何故かリファとガルドは私達の言いたいことを的確に言ってくれるんですよね」
「同感だ」
漆黒の鎧を着た魔族がそう共感した。
するとメラと幹部等は驚いたかのようにその魔族を見た。
「ガ、ガイアさんが喋った……」
「お前の声初めて聞いたぜ」
「私もだわ」
ガリアは「何故そこまで驚く?」と不思議そうに首を傾げた。
だがメラや幹部等が驚くのは無理もない事だった。
何故ならガリアは魔王の最初の幹部であり、今日まで一言もガリアの声を聞いたことがなかったのだ。
そのような者がいきなり話すともなれば皆驚くのは必然だ。
「我とて言葉を口にすることぐらいはある」
「ですが何故このタイミングで口を開いたのですか? 私としては嬉しいのですが」
「それは先程の小娘があまりにも悲惨な運命を辿るのが見えたからだ」
「悲惨な……運命ですか?」
「そうだ。我は見た相手の未来を見ることが出来る。それはほぼ確定な未来だ。だが百パーセント正確な未来なんてものは我には見えない」
「なるほど、あなたは魔眼の所有者でしたか。それでノア様の未来はどのようなものでしたか?」
「それは言えぬ。我が見た未来をお前達に言えばそれを解決しようと動くだろう?」
その問いにメラはグッと押し黙る。
「だから我は言わぬ。これはあの小娘が自力で解決する事案だ」
メラ達は言いたいことが山ほどあったが何も言わなかった。
それはガリアから殺気に等しい何かを感じ取ったからだ。
要は「これ以上追求するな」と言うことだ。
だがメラは一つだけどうしても聞いておきたいことがあった。
「一つよろしいでしょうか?」
「……なんだ?」
「ノア様の為に死んだ者はこの中に何人いますか?」
ガリアは少し考える素振りをした後、こう率直に答えた。
「七人だ」
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