皆して何さ……
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魔王様はとても不思議な人だった。
魔王様は私を見た瞬間両脇に手を入れ、高々と私を持ち上げた。その顔はとても優しく、嬉しそうだった。
会話すらした事が無いのにまるで私を家族のように扱った。
何でそんな扱いをするのか聞いてみたところ「お前には親がいないだろ? ならば俺がお前の親として育ててやろと思ってな。なに、心配するな。俺は既に二人子供がいるからそこら辺は大丈夫だ」と答えた。
確かに私には親と呼べるような人はいない。でも初めて会った私を自分の子供として迎え入れるなんてありえないと思ったが、この人の目は本気だった。
私はこの人なら色々なことを教えてくれるだろうと思った。
今の私に足りないものはこの世界の知識だ。この人なら満遍なく教えてくれるだろう。
「分かったこれからよろしく。でもこの世界のことについて教えて」
「そうかそうか! この世界については俺たちと生活していれば少なからず分かってくる。予備知識が欲しいのならば書庫にでも行って見るといい。これからよろしくな」
「よろしく、魔王様」
「ああ、よろしくな……えー……すまないが名前はなんと言うのだ?」
「私にはまだ名前は無いから魔王様がつけて。ダサいのは嫌だから」
私がそう言うと魔王は少し考える素振りをした。やがて、にっこりと笑い私の名前を言った。
「ノア……なんてどうだ? 俺の種族の用語で〈一輪の白花〉と言う意味だ」
「……気に入った。じゃあ今日から私はノア」
「改めてよろしくな、ノア」
この瞬間がこの世界に来て一番嬉しかった。頼れる人が出来たのも嬉しかったけど、それよりも私に名前をつけてくれたことが何より嬉しかった。
私の名前を真正面で付けられるのはとてもむず痒かった。でもそんなむず痒さは嬉しさによって吹き飛んだ。
もしかしたら私がこの世界で一番欲していたのは知識でもなく、私を支えてくれる親なのかも知れない。
「この歳になっても親離れが出来ないなんてね……」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもない」
あの嬉しかった日から数日が経った。
まだ私の嬉しさは消えていない。
名前を付けてもらったその日、魔王様は私に服をくれた。だけど魔王様がくれた服は明らかにお姫様が着ているような豪華な服だった。
それを見た私は誰から見ても嫌な表情をしてしまった。その為魔王様はオロオロとしてしまった。
そこで私は黒を基調とした動きやすい服をお願いした。なるべく目立たなく、無駄なものがなく、スカートではなくズボンの服が欲しいという注文もついでに付け足した。
それを聞いた魔王様とマルクさん、秘書のメラさんは女の子なんだからもう少し可愛げのある服を着た方が良いのではないかと私に迫った。
私は見た目よりも性能重視と三人に伝えると、それじゃあ大人になった時に貰い手が居なくなると言ってきた。
私は結婚なんてどうでもいいと思っている派だ。もし結婚してしまったら自由に過ごせる時間が減ってしまう。だから私は結婚に関してはどうでもいいと思っている。
だけど魔王様達からしたら私のような綺麗な子には嫁いで欲しいと言う願いがあるそうだ。
綺麗と言われるのは慣れっこだ。前世ではよく校舎裏に呼ばれて告白されたものだ。
まあ尽く断ったけどね。
「ノアは結婚して幸せになりたくないのか?」
「結婚したら自由な時間が減る。それにメラさんも結婚してないんでしょ?」
私が魔王様にそう言うと、メラさんが流れ弾を受けたようで「ぐはっ!」と胸を押さえた。
するとメラさんはフラフラと私に近寄り、ガッ!と肩を掴んだ。
メラさんは笑ってるけど、物凄く怖い顔をしながら私にこう言った。
「私が結婚しないのは仕事が忙しいからです。これでも結構モテる方なんですよ。本当はさっさと結婚してこんなブラックな仕事場を去りたいのですが、魔王様がこんな人なので結婚の相手を見つけることが出来ないんです」
それを聞いた私は魔王様にジト目を向けると、サッ!と目を逸らした。
「と、とにかく! ノアは美人なのだしそこら辺を気にした方がいいぞ」
「じゃあ私が成人になった時に私よりも強い人がいたら少しだけ考えてみる」
「いや……それは無理難題すぎやしないかねぇ」
「どういうことだ? マルク」
「だってノアのステータスはこの歳で到達出来る範囲を遠の昔に超えている。言うならばこの歳でそこらの一級兵士と同等かそれ以上の力を持っているということだねぇ」
「なっ! そ、そうなのかノア!」
「いや……私がここの兵士の強さを知るわけないじゃん」
「ふむ……すまないがステータスを見てもいいか?」
「魔王様も鑑定系スキルを持ってるんだ。別にステータスを見るぐらい何時でもいいよ。隠すようなものでも無いし」
見られて困るようなスキルや技能は生憎私は持ち合わせていない。だから今は見られて困るようなものはないも無い。
それにしても魔王様といい、マルクさんといい、こうも鑑定系スキルを持ち合わせている人がいるとどうも落ち着かない。
何で落ち着かないのかは分からない。
私の中の何かがステータスを見られるのを拒んでいるのかもしれない。
物凄く厨二くさい感じがするけど、実際そんな感じなのだし否定のしようがない。
そんな落ち着かない鑑定系スキルで私のステータスを見ている魔王様は「ほぉ」とか「これはこれは」とかそんな事を言いながらステータスを見ていた。
「高いな……」
「何が?」
「俊敏、知力、魔力が以上に高い。特に知力と魔力が他と比べてずば抜けている。このステータスだと後数年後には幹部クラスに限りなく近いステータスになるな」
「幹部って強いの?」
「ああ、強いとも。何せ俺が担当する南の魔界で選りすぐりの奴らを選んだのだからな」
「……もしかして魔王様は四人いるの?」
「そんな事も知らなかったのか? 広大な魔界を一人の魔王が統べれる訳が無い。だから東西南北に一人ずつ魔王が付き、統治しているんだ」
じゃあもし勇者なる存在がいるとすればその勇者は四人の魔王を倒さなくちゃいけないということになるのか。
でも魔王様が四人いるとなれば勇者も複数いても何ら不思議ではない。
そうじゃなければ圧倒的に勇者陣営は不利だ。
「勉強になった」
「それは良かった。話を戻すが、ノアは嫁ぎたくないのだろ? ならば何がしたい?」
「強い奴をぶっ倒して美味しい血を頂く」
「……おおよそ年頃の女の子が言う言葉ではないな」
「そうですね」
「そうだねぇ」
「三人して何さ……私の栄養源は血液何だからしょうがないじゃん」
これが価値観の違いか。
私はそんな物騒なことを言っている自覚はないんだけどなぁ。
魔王達はふぅとため息をついた。
一体何に対してため息をついたかは分からない。だが明らかにそのため息の原因はノアだった。
それに気づいている当の本人であるノアは居た堪れない気持ちになった。
「どうしてこうも男っぽいのでしょう?」
「セルには毎度毎度驚かされてばかりだねぇ。今回は特に」
「マルクが驚いているのは俺じゃなくてノアに対してだろ?」
「ノアを連れてきた張本人はセルじゃないのかねぇ?」
「むっ……確かにそうだ」
「いや……納得しないでよ魔王様」
この会話を聞いていて、私はとても微笑ましく思った。
私が想像する魔王像は殺戮を好む殺戮者辺りを想像していたというのにこの魔王様は全く持って真逆な存在だ。また、その部下も魔王様と同じ真逆な存在だ。
魔王と言ったら人間を殺し周り、世界を征服するイメージが私の中では一般的だ。もしかすると他の魔王が私の想像するイメージなのかもしれない。
そう考えるとこの魔王様はどの魔王と比べても異質な存在になる。
異質な存在は嫌われやすい。
もし魔王同士で争いを始めたら一番最初に矛先が向くのはこの私を救ってくれた魔王様になる。
それは駄目だ。
何たって魔王様は私の親であり、命の恩人なのだから。
「何を考えているんだ? ノア」
「皆私の持ってるイメージと違うなって思って」
「イメージ? それはどんなイメージだ?」
「それは秘密」
もう少し力をつけたら魔王様に恩返しをしなくちゃね。
それが私が唯一出来る感謝の気持ちだ。
これからもっともっと楽しい日々が訪れるといいな。
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