胸の痛み
修正終了済み
「こいつを倒せば当分の食料問題は解決する」
そう考えるとさらにやる気が出てくる。
私は一気にブラッド・サーペントとの距離を詰め、右目に短刀を突き刺した。
右目を失ったことでブラッド・サーペントの隙が更に増える。そうなれば後は体全体を切り刻んでいけばいいだけだ。
今の私ではブラッド・サーペントを両断できる力は持ち合わせてはいないが、手数の多さなら落ち合わせている。それを活かして戦えばこんな奴にはまず負けることは無いだろう。
「ジャァァァアアァァァァ!!!」
右目から真っ赤な鮮血を出しながら、私に向かって毒を飛ばしてきた。
これは先程目にしたので毒に当たるとか言う無様は晒さない。
ブラッド・サーペントの右目は傷口を氷で凍らせている為、回復はしていない。
だが、凍らせたのは傷口であって血ではない。
私の狙いは出血多量による死だ。
体の中の血液が極端に減ると、体の動きが更に鈍くなり、脳に血液が回らなくなり、やがては動くのもやっとの状態になる。
そうなってしまえばもう私の勝ちは確定だ。その為にもブラッド・サーペントには大量の血を流してもらわなければいけない。
かなり勿体ない気がするが、これ程の巨体なら心配する必要も無いだろう。
それから私は一心不乱にブラッド・サーペントの体を切り刻んでいった。途中短刀の刃がかけるなんてことが数回あったが、『氷魔法』で即修復できる。
やはり『氷魔法』は汎用性が高い。この魔法を最初に獲得できたのは幸運だった。
そんな事を考えているうちにブラッド・サーペントは体の至る所から血が流れ出ていた。
後もう少し!
そう思った瞬間ブラッド・サーペントは私に向かって大きく叫んだ。
「か、体が……」
『威圧』を直で食らってしまった私は、体が硬直して動かなくなった。
これはヤバイ!私の考えが浅かった!
『威圧』がブラッド・サーペントのステータス表に表示されていることは知っていた。
だがそれを私は確認もせずに放ったらかしにしてしまった。
まさか『威圧』が体の自由を奪うようなスキルだとは思わなかったからだ。
「ジャアアァァァ!!!」
いざ私を食べようと大口を開けて迫るブラッド・サーペント。
異世界転生初日ならここで人生を諦めていたのだろうけど、今の私は違う。
異世界の物を食べ、異世界の魔法に触れ、異世界の森で生活をしている。何もかも地球で生活していた頃よりも数百倍も楽しい。
強い敵と戦い、仲間を作り、色んな人に認めてもらえるようになりたい。
だから私はこんな所では死ぬわけにはいかないんだ!
「『氷魔法』"氷の大盾"!」
私とブラッド・サーペントの間に5メートルを超える大盾を作り出した。
突然現れた大盾にブラッド・サーペントは勢いよく突っ込み、後ろに勢いよく弾き返された。
消費魔力は今残っている魔力の10分の9。
一気に魔力が抜け、体は激しい倦怠感に襲われたが、ブラッド・サーペントの攻撃は防ぐことが出来た。
そして『威圧』の効果も切れ、私の体が自由に動くようになった。
次からは気をつけないと本当に危ない。
大盾のおかげでもう魔力が枯渇状態だ。これ以上魔力を使うと本当に倒れてしまう。
「ジャアアァァァアアァァ!!!」
「あれだけ血を流しているというのによく動ける蛇だこと……」
半場ブラッド・サーペントの生命力に呆れながら私は短刀を片手にさらにダメージを与えていく。
手を緩めてはいけない。今この瞬間で方をつけなくてはもう時期魔力枯渇で倒れてしまう。
勝負は最後に立っていた者が勝ち取るものなのだから。
「ハァッ!」
「ギィシャアァァァ!!!」
ブラッド・サーペントの脳天に向かって短刀の刃先を振り下ろす。
強化された短刀はこんにゃくを貫いたかのようにブラッド・サーペントの脳天にすんなり通った。
体が大きい分脳への当たり判定が広い。
だがこいつは魔物で爬虫類だ。爬虫類はしぶとい。念入りに倒さなければ不意を付かれる。
「ジャアアァァァ!!!」
「がっ!」
ブラッド・サーペントは頭に乗っている私を、私ごと近くの木に頭突きをした。
その威力はあの黒樹がミシミシと倒れる程だった。
それを直に食らった私は口から多量の血を吐いた。肋数本と左腕の骨も衝撃で折れたようだ。
だがこのくらいで済んで良かった。下手したら今の一撃で殺られていたかも知れない。
過度の疲労と身体中の痛み、魔力の使い過ぎによる倦怠感。
こんな体ではあいつを倒せないが、私の短刀はしっかりとあいつの脳に届いている。それに先程の頭突きの衝撃もあってか、より深く短刀の刃先が脳を貫いただろう。
私も限界で、蛇も限界。
私も蛇も限界をとうに超えているが、幾分か私の方が有利だ。
蛇は脳に短刀が届いているのでもう死を免れないだろう。そして私は骨折と倦怠感以外は致命傷となるような傷を受けていない。
まあこの傷のほとんどは最後の頭突きが原因なんだけどね。
「シャア……ァァァ!」
「ん? 何か……された?」
私に何かをした後、ブラッド・サーペントはばたりと顔を地につけた。やがて、その瞳孔からゆっくりと光が失われていった。
あまりにもハードな戦いだった為、私もばたりと倒れたが、命には別状はない。
一体ブラッド・サーペントは死ぬ間際私に何をしたのか分からない。分からないのだが体に何かをされたことは感じた。だけど別に体にはこれと言った異常はないのだから気にしなくてもいいのかな……。
ピキッ!
「痛っ!」
胸に激痛が走った。
最初は折れた肋かと思ったが、この激痛は心臓から来ていた。
あまりの激痛だった為、頬を涙がなぞる。
「い、一体なんなの……」
これがもしかしてブラッド・サーペントが死の間際に私にした事?
だとしたらしょぼ過ぎる。死ぬ直前まで取っておいたスキルならさぞ強力な物なのだろうと思っていたのに。
それから少し経ち、胸の痛みも少し和らぎ、微量だが魔力も回復した。
未だに胸がズキズキと痛むが、このくらいどうということは無い。
それに血さえ飲めばある程度の傷は治る。
さすがに欠損した部分は治るかどうか分からないけどね。
痛む左腕を右手で押さえながらゆっくりとブラッド・サーペントに近ずいた。
傷口からポタポタと垂れる血はまさに宝石にも等しいような存在に私は見えた。
これを早く飲んで回復に専念しなければ下位の魔物に呆気なく倒されてしまいそうだ。
ポタポタと垂れる血を右手にですくい、口に運んだ。
ブラッド・サーペントの血はまさに極上と言っても良いほどの美味しさだった。ヘル・バーバードなんて目では無い程に美味しかった。ランクが少し上がるだけでここまで美味しいとは驚きだ。
そして、肋の痛み、左腕の痛み、魔力枯渇による倦怠感は嘘だったかのように吹き飛んだ。だけど胸の痛みだけはどうも治らなかった。まあこれに関しては自然治癒でどうにかなるだろう。
多分……。
「蛇も倒したし、血を回収して戻……ろう……かな……?」
あれ?体から力が抜けて……。
体に力が入らなくなった私はその場で座り込んでしまった。どうにか立とうと足に力を入れるが、全く力が入らず、立てなかった。
「なんで……」
すると、視界が急に赤く染まった。
目もおかしくなってしまったのかと思い、目を擦ると手には真っ赤な血が着いていた。
血涙なんて私の体に一体何が起こっているんだ?
困惑していると、血涙に続けて口からも血が垂れてきた。
「こんな……こんな所で死ぬ……の? 嫌だよ……。まだ……やりたい事が……あるのに……」
薄れ行く意識の中『気配察知』には急速に私に近づく反応があった。
「新手……かな……」
そのまま私の意識は暗闇へと吸い込まれて行った。




