芳醇な香り
修正終了済み
「か、硬すぎでしょ……」
私は家の材料として使う木を切り倒そうとしていた。
因みに切り倒そうとしていたということは未だに1本も切れていないということだ。
数十分前から氷で出来た斧で木を切ろうとしているのだが、全く切り倒せるような気配がなかった。
逆に氷の斧の刃が欠けるだけだった。
まあ木が切れない原因はもう分かっているのだけど、これに関してはどうしようもないので、地道に頑張っていた。
その原因というのは単に私の筋力が低いからだ。
少し前にこの木を『鑑定(魔)』で見てみたところ……
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【黒樹】採取難易度:B-
魔素の非常に高い場所で育つ超硬度の樹皮を持つ木。
主に弓矢などの武器の素材に使われる事が多いい。
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そう、この木は樹皮が異常に硬いのだ。
だが樹皮が硬いのであって樹皮の中は果たしてどうなのだろうか?
確認のために樹皮を剥ぎ、中の木を硬さを見てみたいのだが、樹皮が硬すぎて剥ぐどころか少しずつしか削れなかった。
まさか樹皮の中にすら到達出来ないなんて驚きの硬さだ。
「どうしたものか……」
せっかく住みやすい所を見つけたというのに家がなくては意味が無い。
異世界に転生してからというもの家と言う家で寝ていない。
ふかふかのベットで早くぐっすり眠りたい。
そんな事を考えながらひたすら木の樹皮を少しずつ削っていると、『気配察知』に何か大きな反応があった。
「またヘル・バーバード? でも明らかにヘル・バーバードより反応が大きいような……」
嫌な予感がするが、この綺麗な場所に来られては困るので、早めのうちに倒しておこう。
私は反応のあった場所に急いで向かった。それは早く家を作る作業を再開したいのと、また美味しい血に出会えるかもしれないかという願望があったからだ。
イラつきと楽しみが交互に顔を出している中、私は反応のあった場所に辿り着いた。
そこに居たのは巨大な蛇だった。
その大蛇は体全体が紫色だったため、それこそパープルサーペントと言ってもいいような魔物だった。
私は念の為、戦う前にあいつのステータスを見ることにした。
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個体名:ブラッド・サーペント レベル:70
ランク:S
生命力:4000
筋力:6100
耐久:3000
俊敏:1000
知力:520
魔力:2900
【スキル】『熱源探知LV9』『威圧LV8』『毒耐性LV9』『硬質化(鱗)LV7』『筋力増加LV6』『奥の手LV4』『暗視LV7』『回復(体)LV8』
【技能】『毒魔法LV9』
【称号】−
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これは……かなりヤバイ。
まさかここまで強いとは思いもしなかった。
だが!私には地球の知識がある。異世界では地球の知識はチートと言っても過言ではない。
ブラッド・サーペントは蛇なのだから周りの気温を低くすれば動きが鈍くなるだろう。
変温動物なのだし……。
「シャァァァァ……」
ブラッド・サーペントは『熱源探知』を持っている。スキル名からしてサーモグラフィーみたいなものなのだろう。
ならば自分の動きを阻害しない程度に『氷魔法』で体温を下げ、なるべく『熱源探知』に引っかからないようにしよう。
私は『氷魔法』で体を冷やし、右手に氷の短剣を作り出した。
今の私のレベルは42。
対してブラッド・サーペントのレベルは70。
この差をどう縮めるかが問題だ。一応『氷魔法』の技能レベルは4に達している。おかげで今まで以上の耐久性と斬れ味を誇っている。
だけどこの短剣ではブラッド・サーペントの鱗という名の鎧を破ることは出来ないだろう。
ましてや遠隔攻撃なんてかすり傷すらつかないかもしれない。
かなり危険だが、ここはなるべく近接攻撃で攻めてみるしかないか。
まず私は『氷魔法』を使い、ブラッド・サーペントの周りの温度を下げた。
これで動きはかなり鈍くなっただろう。
私はブラッド・サーペントの背後の草むらから勢いよく飛び出した。
『気配遮断』をフルに使っているので、私の足音や気配にはまだ気づいていないだろう。
ブラッド・サーペントは硬い鱗が全身を覆っている。
その為下手な攻撃をしてもノーダメージだ。
では何処を攻撃するのか……それは鱗と鱗の隙間だ。鱗の隙間であれば短剣は肉に刃を通すことができる。
まあ、あくまで推測なんだけどね。
短剣をしっかりと握り、私はいざブラッド・サーペントに刃を突き刺した……が、短剣の刃はパキンッ!という音を立てながら宙を舞った。
「え……」
「シャアァァァアアァァァ!!!」
こうなる事も予め予想はしていたが、まさかここまで綺麗に予想が当たるなんて思いもしなかった。
そして、最悪な事にブラッド・サーペントは私の存在に気づいてしまった。
周りの気温は下げているので動きが遅くなってる。
この程度であれば避けれないほどという訳では無い。
だが、動きを遅くしただけではダメだ。
決定打となるような一撃が必要だ。
「ジャアアァァァ!!!」
「ッ!」
大口を開け、二本の毒牙から毒を私に向かって飛ばしてきた。
『鑑定(魔)』を持っていたおかげで『毒魔法』を持っていたことは知っていた。
それが功を奏したのか身を捻って躱すことに成功した。
もし毒が体に直撃していたら今頃ドロドロに溶かされていただろう。
今更だけど触れたらアウトな毒って反則じゃない?
毒に当たる、皮膚が溶ける、激痛が走る、死ぬ。
何だこの即死コンボは。
タチが悪いにも程がある。
「『氷魔法』"重硬化"」
私は短剣を作り直し、さらにその短剣に薄く氷を何十層にも渡って固めた。
何十層にも薄い氷を重ねた短剣の強度は折り紙付きだ。
ブラッド・サーペントの鱗に向かって強化した氷の短剣を切りつけた。
すると、あれほど硬かった鱗には短剣によって付けられた傷が一筋くっきりとあった。
刃が欠けている様子もない、折れるような傷も見当たらない。
「これなら」
ここからは只々攻撃をしていくだけだ。
だが鱗ばっかり攻撃しても意味が無いので、中身にもダメージを与えなくてはいけない。 先程は鱗と鱗の間に刃を突き立てたらポッキリと折れてしまったが、この強化版短剣ならいけるかもしれない。
だけど心配な事が一つだけある。
それは『回復(体)』のスキルだ。
スキル名に回復と表示されているのだから受けた外傷などを治すことのできるスキルなのだろう。見る限り鱗に付けた傷は無くなっていないので、あくまで肉体のみにつけられた外傷を治すスキルだろう。
さて、これはどう攻略したものか……。
せっかくダメージを与えても回復してしまい、全て無かったことにされる。
まあ、唯一無くなると言えば魔力ぐらいかな。
でも魔力をチマチマ削るのは面倒臭い。
一体どれだけ倒すのに時間がかかるんだよってついつい考えちゃうよ。
こうなったらあの手を使うしかないか。魔力消費量が物凄いからあまり使いたくないけど、あの場所を守れるのならば出し惜しみするのは愚策だな。
「『氷魔法』"氷浸刃"」
この魔法は氷の刃に氷の特性を付与することが出来る。
今まで私が使っていた短刀は『氷魔法』で作られてはいるが、『氷魔法』の特性は無い。
即ちただの氷で作られた短剣だった。
本来の『氷魔法』の特性は「相手を凍らせる」ことにある。
それを短剣に付与してしまえば斬った相手の傷口は凍り、回復不可能な状態にすることが出来る。
だが、その分魔力消費量は莫迦にならない。
何せこの状態を維持するだけで全魔力の5分の3を持っていかれるのだから。
この燃費の悪さをどうにか解消出来ればもう少し使いやすい魔法になると思う。
だけどそれはまだ当分先になるだろうな。
「キシャァアアァァァ!!!」
「ハァッ!」
大口を開けて私に向かってきたブラッド・サーペントの顎横一線を強化した短剣で避けながら切りつけた。
ブラッド・サーペントの顎からはポタポタと赤い血が流れ出る。
それを見た私はついヨダレが出そうになった。
一旦距離を取った為、かなりブラッド・サーペントから離れているというのにくっきりと芳醇な血の香りが鼻の中に入ってくる。
前に飲んだヘル・バーバードの血よりもいい匂いだ。
流石はSランクなだけはある。
「これは倒しがいがありそうだ」




