神と神
修正終了済み
「うっ……ここは……どこだ?」
そこは見渡す限りの白い空間が広がる場所だった。
何も無く、何色にも染まりそうな程に白い場所だった。
陸人のすぐ隣にはぐったりと仰向けで寝ている新一の姿があった。
その様子を見た陸人はほっと、安心した。
「やっと起きましたか。まだ一人起きてはいませんが時間が無いので其方だけでも私の話を聞きなさい」
「あなたは……」
そこにはこの白い空間と同様に真っ白なローブを着た真っ白な女性が忽然と立っていた。
ここまで白いとどうも引いてしまう。
「私は召喚神ティラシーラ。この世界で召喚に関するお役目を担っている神です。そして其方ら二人は勇者として選ばれました。これは光栄なことです」
「か、神だって! 何言ってるんだよ! そんなことどうでもいいからさっさと元の場所に戻せよ!」
「黙りなさい。先程言った通りこれは光栄なことなのです。矮小な人間如きが神に口出しするようなものではありません」
言葉に『威圧』を乗せたティラシーラの物言いに陸人はすっかり黙り込んでしまった。
それもそのはずだ。神は人間よりも遥上位に君臨し、世界を管理する者。
そのような存在に『威圧』付きの言葉で話されては誰しも黙るだろう。
「其方らはこれからクラレント王国と言う王国に勇者として召喚されます。勇者の役目は主に三つあります。まず一つが魔物を倒すこと、二つ目は人間族をまとめ、全ての種族を根絶すること、三つ目は勇者としての最終目標です。それは悪が具現化した姿をした魔王を倒すことです。分かりましたか?」
「な、何で俺達が勇者として選ばれたんだよ」
ティラシーラの『威圧』も収まり、ようやく喋れるようになった陸人は一番気になることを聞いた。
それは別に自分達が勇者にならなくても他にいるだろうと考えての発言だった。
それを聞いたティラシーラは「はぁ」と溜息をつき、陸人の質問に淡々と答えた。
「勇者としての素質がある者は今までの人生の中で大事なものを失っている者達です。かと言って年老いた者を勇者とする訳にも行きませんのでなるべく若く、頭のまあまあ回る者が勇者として召喚されます。何より召喚の義と其方らが大切なものを失った日が近いというのもありますね」
「だからって今日はないだろう!」
「騒がないで下さい。其方らの都合なんて神が知る由もありません。其方ら人間は大人しく神に従っていればそれで幸福なのです」
「それでも神なのか!」
「騒がないで下さいと言ったでしょ?」
「っ!」
ティラシーラは再度陸人に向かって『威圧』を発動させた。先程までとは比べ物にならないほどの『威圧』だ。
「人は神の創りし奴隷です。そこで其方へ質問です。何故人間は生態系の頂点にいると思いますか?」
「の、脳が他の生き物よりも大きいから……」
「違います。人間が生態系の頂点にいるのは神が創り出した奴隷だからです。人間は神の退屈しのぎで創られた言わば道具です。ですが退屈しのぎにも限度があります。だから神は人間に学習する知能を与えました。その結果が今の人間です」
「奴隷だって? その物言いはないだろ!」
「騒がないで下さい。三回目の忠告ですよ。これから其方は召喚されるまで私の話を聞いているだけで良いです」
三度目の『威圧』は手の震えが永遠に止まらないと錯覚させられるほどの『威圧』だった。それは少しでも気を抜けば意識があっという間に飛びそうな程だった。
もういっその事ここで意識を手放した方が楽だと思ったが、陸人はそうしなかった。
これから話されることをなるべく正確に把握し、新一に伝える。
それが陸人にとって最優先事項だと思ったからだ。
「私の手をこれ以上煩わせないで下さい。では話の続きを始めましょう。其方らは召喚された地で確実に人間族最強の力を手にすることになるでしょう。そして、その力を存分に振るって下さい。ですが、その力は私が今から与えるユニークスキルによって左右されてきます。其方らに合うユニークスキルを与える予定ですので何も心配する必要はありません。これで私の話は最後です。今から其方らが召喚される世界は人間族以外に色々な種族がいます。森妖精族や魔族、悪魔族、竜人族、天使族など様々な種族がいます。人間族以外は全て駆逐対象ですので全て皆殺しにして下さい。慈悲なんてものはいりません。分かりましたね?」
「……」
「そう言えば聞いているだけでいいと言っていたことを忘れていました。まあ無言は肯定ととっても良いでしょう。では、せいぜいお役目を全うして下さいね」
ティラシーラがそう言い終わると陸人と新一の足元に幾何学模様の魔方陣が現れた、眩い光を発し始めた。
「ちょ、ちょっとまってくーー」
まだ聞きたいことがあった陸人は新一を担いで魔方陣から出ようとするが、魔方陣を出るよりも先に陸人と新一はこの場からいなくなった。
そして、陸人と新一のいなくなった白い空間には召喚神ティラシーラとあと もう一人しかいない。
「今代の勇者は期待できますね。あの新一という者はともかく陸人という者は歴代でもトップクラスの素質がありますね。一体どのようなものを失ったのか気になるものがありますね」
「ほぉ、そいつはいい知らせだな」
「……いつからいました?」
「【第四柱】がさっきの二人を送った辺りからだ」
そこに居たのは黒髪黒目で黒のローブを着た男だった。
全身黒いせいでこの真っ白な空間とは全く吊り合わない。
「私のことを【第四柱】と呼ばないで頂けますか? 【第二柱】破壊神ウェルス」
神界に住む神の中で世界を管理できる者はたったの十二人。
その中の【第二柱】に座っているのは破壊神ウェルスだ。
神にとって席とは最高の称号だ。
何故なら席を獲得出来れば自由に神界と地上を行き来できるからだ。
だが、席の称号を持つ神は地上世界へはあまり行きたがらない。
その理由は森妖精族と魔族と天使族が怖いからだ。
神はこの三種族が使う最上位魔術を恐れている。
そして、地上世界に降り、この最上位魔術の餌食になった神が二人だけいる。
それが【第四柱】召喚神ティラシーラと【第十一柱】転生神メサーナリアだ。
「相変わらず言葉遣いが硬いねぇ。まあいいさ、今回お前さんのとこに来たのは【第十一柱】が転生させた奴についてだ」
「何かと思えばあの子についてですか。今頃あの子はもう転生して地上世界で生活している頃でしょうね」
「それが問題なんだよ。何故絶滅種に転生させた」
「それはあなたも神ならば分かるでしょう?」
「暇つぶしか……」
「その通りよ。私達神は何時だって退屈、だから少しでも暇つぶしになったら最高だと思わない?」
「だからそれが問題だと言っているんだ。俺は破壊神だが地上世界に存在する生命を管理する仕事もしている。ひ弱な人間ならまだしも転生させたそいつの種族が魔族の中でもトップクラスの戦闘力を持っていた吸血鬼だ。もしそいつが下手に力を使えば種族のパワーバランスが崩れるんだよ。お前なら分かるだろ?」
そう破壊神ウェルスが言うと、召喚神ティラシーラはクスクスと笑った。
「分かっていないのはあなたの方よ」
「あぁ?」
「メサーナリアは一に一をかけただけ」
「つまり何が言いてぇんだ?」
「物分りの悪い神ですね。私が言いたいのは元々この世界に存在したものを再利用しただけという事です」
例え神であろうと人を個人で作るのは御法度とされている。
それは一個人が強大な軍隊を作るのを防ぐためだ。
それに人を勝手に作ってしまうと、世界にいる全ての生命を管理するウェルスが困ってしまうからだ。
だが例外もあり、転生神にだけ破壊神の許可を取り、人を創り出すことを許可されている。
転生神の役割は減った生命を増やすだ。
破壊神と転生神が協力することによって初めて世界は均衡する。それが普通なのだが今回転生神はそれを破り、自らの意思で人を一人増やしてしまった。
それも魔族の中では最強クラスの戦闘力を持つ吸血鬼を作ってしまったと言う。
もしその者が自分自身の為だけに力を使えば確実に種族のパワーバランスが崩れる。
それに対してウェルスは怒っているのだが、ティラシーラは全く聞く耳を持たなかった。
いや、一応聞いているが、反省の色が見えないと言った方が正しいだろう。
「チッ! これだから敗北者は嫌なんだよ!」
「なんとでも言いなさい。何せ私はまだ負けてはいないのですから」
ウェルスは「気に食わねぇ女だな」と吐き捨て、どこかへ消えていった。




