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ギルドの現状

 俺とミツはカウンター前に並んでいた椅子に腰を下ろす。


 灯りがつくと、先程までの鬱蒼とした雰囲気から一転し、小洒落た喫茶店のような雰囲気へと変わった。外観と同じく赤銅色で統一されており、古時計などの機械じかけの家具が置かれたアンティーク調の内装だった。


 しばらくすると、仕事服に着替えた女性がカウンターごしにコップを二つ、目の前に置いた。


「私の名前はリオノーラ=ウェイレット。一応、ここのギルドの長を任せられたのだけど――」


 頭の後ろで髪を結びながら、リオノーラは俺らに視線を向ける。


「――とりあえず、今ここはお休みよ。依頼もないから、魔物倒すも薬草採取もお好きにどうぞ。報酬はないけれどね。その上で何か聞きたいことは?」


 矢継ぎ早に言葉を述べたあと、カウンターの奥で頬杖をついた。まだ眠気が完全に覚めてないようで、滑舌が悪く、目も半開きだ。


「単刀直入に聞くが、なぜ依頼がない? 依頼が無ければ、冒険者が来るはずもないだろう」

「逆よ。〝依頼をこなす人がいない〟だから〝依頼をする人がいなくなった〟。依頼の掲載にお金はかからないけど、ここまで来る時間と書類を書く手間は間違いなくかかるわ」


 寝起きとは思えない正論に俺は返す言葉が無くなった。


「……この状態になってから、どれくらい経つ?」

「三年ほどね。といっても、私がここに就き始めた頃でも一日三人来たらいい方だったけど」


 三年という予想以上の長さに、思わず言葉を詰まらせてしまった。街の人にとって、ペトリュスはギルドとして認識されていない。ならば依頼もあるはずがない。


「だが、ここははじまりの街だ。転移者は時折出現するはずだが……それでもまるっきりここに来ないのか? 転生時に案内してくれるのではないのか?」


 その問いに対し、ミツが小さく首を振った。


「転生者してきた人に対して、なぜかギルドについて説明を受けないんです。ギルドだけでなく、鍛錬場のことも」

「……嘘だろ」

「私もそうでしたし、何人か転生者に聞きましたけど同じみたいです」

「だから、ここに来るのは偶然か、転生前の世界でもギルドがあった転生者だけよ」


 知らないなら、利用できる筈もない。

 ギルドや鍛錬場の遥か前に問題があったというわけだ。


「本来なら召喚術者がその役目なのだけど、セニルにはいないのよね。北の方にある協会の中に召喚術式の陣が刻まれて、あとは地脈の魔力を吸い上げて自動的に発動するから」

「一応協会に街を案内してくれるおじいさんがいるんですけど……本当に案内してくれるだけなんですよね。冒険者向けというよりは、引っ越ししてきた人向けな感じなんですよ」


 もし二人の話が本当なら、街ぐるみで冒険者を育てたくないのでは、と勘ぐってしまう。それほどまでに、転生者を冒険者として育て〝ない〟ための環境が整いすぎていた。


 しかし、冒険者を育てない理由が分からない。冒険者を排出すればするほど、はじまりの街としての知名度はあがり、観光客の増加や国からの資金援助も厚くなる。魔物が活発化しても、冒険者が多くいればいるほど、対処しやすくなる。


「そういえば、どうしてここは潰れてないんだ? ギルドは確か、冒険者への報酬の何割かを貰うことで経営していると聞いたことがあるが」

「さあ。それは私も分からないわ。このギルドが私営でなくて国営らしいから、それが関係してるのかも。私はここにいるだけで給料がもらえてるからそれで充分よ」


 俺は頭を抑えて、机に突っ伏した。

 あまりに問題が多すぎる。そして、その状況を黙認しつつある街の人々も問題だ。冒険者が減り、街の変化が余儀なくされる現状を疑問視しながらも、その状況を変えられないと諦め順応しようとしている。


 鍛錬場を売ろうとしたヘイデン、そして、ただ居座るだけの仕事に満足しているリオノーラもそうだ。


 仕組みは簡単に変えることが出来るが、人の心となると話は変わってくる。だからこそ国が動くべきだった。国からの圧力で無理矢理にでもはじまりの街としての機能を取り戻すべきだった。


〝国も問題視しているが、あまり動きがない〟という言葉を。


 ガーゴイルの言葉を、身を持って確認できた。あまりどころか、全く動いていない。国営であれば手を入れやすいにも関わらず、このザマだ。もし他のはじまりの街も同じ現象が進めば、半世紀もしないうちに冒険者は一握りの数になる。そうすれば、魔王軍の侵攻に耐えることはできなくなることは明白だ。

 

「そういえば、あなたたちはどうしてここに来たのかしら? わざわざこんな話を聞くために?」

「ああ、そうだ」

「そう。面白い方々ね」


 リオノーラは両腕を上げて大きく伸びをし、ふうと息を吐きながら再び頬杖をついた。


「もし本当に冒険者を目指すなら、別の街に行くことをオススメするわ。といっても、他の街に行くには魔物の縄張りを自力で突っ切るか、高額の馬車を使わなきゃいけないわけだけど」

「……他の街へ動きにくい立地も、冒険者への道を阻害する理由の一つってわけか。こりゃ、洗い出せばキリがなくなりそうだな」

「あなたは、冒険者を増やしたいの?」


 リオノーラは不思議そうに首を傾げ、大きな深緑の瞳で見つめてくる。もしリオノーラがあくまでぐーたらな環境がいいというなら、代わりの人間を探さなければならないからな。


「鍛錬場の指導者として、見過ごせないってだけだ」

「あら、先生だったのね。ということは、ミツさんは生徒さん?」

「そうです! そして私が一番弟子です。あ、先生はウラボス先生といいます」

「可愛い生徒さんね」


 リオノーラに褒められ、えへへと頬を緩ませるミツ。

 しかし、〝ウラボス〟という名前に何も引っかからないということは、リオノーラは〝裏ボス〟という言葉を知らないのだろうか。

 変に勘ぐられる事もないからありがたいことではあるのだが、少し寂しい気もした。

 

「リオノーラさん、一つ質問がある。あくまで例えばの話だが……もしギルドが昔のように依頼が集まり、冒険者が足を運ぶ施設となったら辞めるか?」


 その問いに、リオノーラの表情が僅かに驚きへと変わった。


「……あくまで例えばの話として答えるけど、辞めないと思うわ。私だって、元々はギルドの受付として働きたいと思って就いたんだから」

「ありがとう。その言葉が聞けて嬉しいよ」


 俺は立ち上がり、グラスに入っている飲み物を一気に飲んだ。

 無味無臭の水だが、ひんやりとした感覚が体の中に落ちてくる。それがまた懐かしく、どこか心地が良かった。


「ミツ、行くぞ」

「あ、はい!」


 ミツはぴょんと椅子から降り、俺の背へと駆け寄る。


「あなたたちは一体……?」

「この街を元に戻したい者だ」

「そう。本当に面白い人たちね」


 リオノーラは頬をついてない方の手をひらひらと振った。


「もし何か知りたいことがあれば、いつでもここに来ていいわよ。どうせあなたたち以外来ることがないのだから」

「助かる。そのときは遠慮なく甘えさせてもらおう」


読んで頂きありがとうございます!

〝街の問題編〟はあと二話で終わる予定です。説明文ばかりですが、お付き合い頂けたら幸いです。


次の更新は2月12日(火)です。

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