進み始めるはじまりの街
ロードリック町長の事件以降、セニルでは待望の変化が訪れていた。
「ついに……十人目ね。この街の卒業生」
ギルドのドア近くに、十枚目の額縁を飾るリオノーラ。
あの戦い……ロードリックの巨岩兵と戦ったことで自信を持った転生者が、初めて冒険者としてセニルから旅立った。そして彼の背を見て、次から次へと卒業生が生まれた。
元より冒険者として外に出たい気持ちはあった者はいた。武器を揃え、知識を蓄え、経験を積んでなお外に行けなかったのは、ほんの僅かな勇気だったらしい。
「ああ。はじまりの街としての第一歩を踏み出したわけだ」
俺はカウンターで水をすすりながら、嬉しそうに額縁を磨くリオノーラを見る。
冒険者として旅立つ前に、みなリオノーラに写真を撮られていた。ペトリュスの実績であると同時に、この街にとっては大切な子なのだ。
「ありがとう。この街を本当に変えてくれて」
「礼には及ばない。まだ十人しか出ていないからな。改善点だって大量に残っている」
「ええ。私もできる限り手を貸すわ」
「助かる。セニルで育ったリオノーラでないと分からないこともあるからな」
リオノーラは一人前の受付嬢として、てきぱきと仕事をこなしている。最初出会った頃……昼間にかかわらず事務所で寝ていたときは心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
「あー、俺から一ついいか?」
右隣に座っていたダイゴが、カウンターに突っ伏しながら手を挙げる。
「なんで俺がこの町長にならなきゃいかないんだ」
ロードリック辞任後、セニルの町長に就任したのはダイゴだった。正しくは〝就任させた〟なのだが……どうやら気に食わないらしい。
「だから何度も理由は説明しただろ。第一に、街から町長を選ばないと王都からまた誰かが派遣される。ロードリックみたく、歪んだ考えの持ち主だったら困るだろう?」
「それは分かる。俺が言っているのは、どうして俺でなきゃならないかってことだ。リオノーラの嬢ちゃんだっていいわけだろう? 俺より人望は遥かにあるんだろうから」
コップの中の氷をからんころんと鳴らして、俺はダイゴの頬に当てた。
「冷たっ」
「これも何度も言ったが、第二の理由は、町長は〝歯止め役〟として機能すべきだからだ。誰かが暴走したとき、多少無理にでも押さえつけることができる人間でなければならない。その点、ダイゴは力もありながら、理屈で相手を制することもできる」
セニルははじまりの街として、新しく始まったばかりの街だ。これからどういう方向性で進むべきか迷ったときに、正しく判断できる人間が必要だ。
特に、俺らがいなくなったあとのことを考えると。
「……俺は正直自信が無いぜ」
「だが、まんざらではないだろ? この街にいるお前の部下だって守れるし、同じ目に会う奴も無くせるんだから」
「俺、やっぱお前のこと好かねぇわ。すぐにアイツらのこと盾にするからな」
「そうか? 俺は割と気に入ってるが」
「男に言われても気持ち悪いだけだ」
そう吐き捨てて、顔を腕の中に吐き捨てる。
その様子を見ていたリオノーラはふふっとほほえみ、
「私も、あなたのこと気に入ってるわ。ウラボスさんを認めてるのに素直になれないところとか、仲間のことになると周りが見えなくなって空回りしやすいこととか」
「……俺を馬鹿にしてるだろ?」
「そんなことないわよ? 少なくとも……何も話さずに、心が分からなかった前の町長よりはね」
ロードリックが生み出したセニルにあった歪みは、少しづつ消えるだろう。様々な立場の者が話し合い、共に手を取り解決できる体制になるのだから。
読んでいただきありがとうございます。
ついにエピローグ……あと2話で完結です。
次の更新は06/05です。




