ボーナスステージ
「くそっ! 何なんですか、貴方達は!」
ロードリック町長は怒りのままに、腕を振るい続けた。何度弾き飛ばそうが、何度叩き潰そうが……転生者たちは即座に回復し、再び挑みかかってくる。
彼にとっては、まるで闇の深淵に住まう〝不死の化物〟を相手にしているかのようだっただろう。明らかに致死の攻撃を行っても、即座に傷が癒やされ、再び戦闘に参加する。敵側からしてみれば常軌を逸している。
治癒魔術とは次元の違う〝再生魔術〟……俺とミツが最終鍛錬のときに使っていた術よりも、さらに強力な魔術だ。
この術を地面に仕込んだテオファニア、そしてヴァーツラとネナにはセニルで街の防衛を頼んでいる。万が一ロードリック町長が手下を連れてきていたり、遠距離魔術による街への直接攻撃を防ぐ為だ。
リュリュを業者と共にセニルに戻らせたのも、敵が街に潜んでいるかどうか確認させるためだった。
「こんな……こんな奴らに私の計画を……っ!」
地水火風、拳撃に斬撃、束縛に弱体化……ありとあらゆる魔術が、巨岩兵の岩肌をわずかながらも削っていく。あまりの攻撃の嵐に、巨岩兵はしゃがみ込み腕で防御を行ったまま動けない。
転生者たちの攻撃は段々と激しくなる。初めての実践に加え、攻撃が成功した自信。集中力は限界まで研ぎ澄まされ、揺るぎない精神は強固な魔術を生み出す。
その結果、ロードリック町長は怒りと屈辱に呑み込まれることとなった。魔術陣による再生があろうが、冷静に対処すれば如何様にも対策を講じれた筈だ。所詮、付け焼き刃の戦闘技術しか持たない転生者に過ぎないのだから。
とはいえ、巨岩兵の硬すぎる防御力のせいで、このまま転生者たちに攻撃してもらっても半日はかかってしまうだろう。十分に経験を積ませたし、そろそろ頃合いか。
「さて、とどめといこうか」
俺が両手を上げると、転生者たちは再び森の中に潜んだ。
そして代わりに、二つの人影が森から現れる。
「やっと俺らの番か! 待ちくたびれたぜ」
肩を鳴らしながら、満面の笑みを浮かべるダイゴ。金属の糸を結いで作った銀色のコートをはためかせ、拳に付いた手甲をぶつけ合わせる。
「特訓の成果……披露させて頂きます」
白衣にも似た白色のローブを纏い、太ももに装着していた短剣を抜く。髪を頭の後ろで結び、ミツは気合十分の顔付きで敵を見る。
ダイゴもミツ。
セニル随一の魔術師たる二人が、全ての元凶にトドメを刺す。
「まだ私は……っ!」
「あん? 聞こえねぇなぁ」
立ち上がろうとした巨岩兵の足に、砂の棘が突き刺さる。
〝貫通〟の属性を与えた砂粒を連続射出し、即座に〝凝固〟させて地面に縫い止めた。初心者狩りでの敗北以来、この男も二度目の敗北を味合わないよう研鑽を積んでいた。
「その程度!」
巨岩兵は縫われた足を切り離し、体を回転させ、ダイゴを潰さんと腕を振るう。
「はっ!」
鋭い掛け声と共に、空から巨大な水流が流れ落ちる。巨岩兵の腕は強制的に地面に叩きつけられ、再び砂の針で縫われる。
ミツが鍛錬で身に付けた力の一つ……それが、激流による殴打だった。ミツが不足していた高火力の術と広範囲の術……その二つを賄う術だ。
「助かった。いとも簡単に再生できるなんて聞いてねぇよ」
「無事で良かったです。あのゴーレム……巨体の割に速さがありますね」
言葉とは裏腹に、余裕綽々の二人。けれども、何も不思議ではない。
巨岩兵を構築する魔力の量は凄いが、それだけだ。魔力コントロールも悪く、術の幅も狭すぎる。
何より致命的なのは、戦略もへったくれもないということだ。ただ巨岩兵を出して、叩き潰す。妨害が入ることなど微塵も考えず、失敗した時にどう立ち回るか考えていない。
「ロードリック町長。俺はただ、セニルを良くしようと思っているだけだ。自分が完璧だとは思っていないし、最善の方法を進められているとも思っていない。だから……ともに街を変えないか?」
街を治める者として培った知識・経験はセニルの発展に、大いに役立つだろう。だが、
「……私は……まだ……」
巨岩兵の体から、ぶつぶつとロードリック町長のぼやきが漏れている。手足が地に縫われ、完全に動けなくなってもなお、諦めようとはしない。
「強制するつもりはない。もし嫌なら、セニルから追放するだけだ」
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