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変わりゆく街

「踏み込みが甘い! もっと躊躇いなく、相手の間合いに入って発動するんだ!」

「集中力が乱れているぞ! 魔術が不安定になってる!」


 セニルの鍛錬場で、朝早くから活気のある声があちらこちらから響いていた。初心者狩りの解散から数日絶たぬ内に、彼らはセニルで冒険初心者のために誠意を尽くしていた。


 戦闘に自信のある者、魔術の知識に秀でた者は鍛錬場で冒険初心者の指導を手伝ってもらっている。


 武器や薬草の知識がある者には鍛冶屋か薬屋に、接待や話が上手い人にはギルドの手伝いと言った具合に、長所を生かした配属をした。


 たった十八人増えただけなのに、かなり様変わりしたように感じた。そしてなにより、元々冒険者だった転生者の存在は、身近な人生の先輩として冒険初心者に大きな安心感を与えた。


「……あるじさま……小屋、綺麗になったんだけど」


 特に改善されたのは、ネナのいる薬屋だった。

 彼女のところには、二人の人間が手伝いに行った。一人は薬について少しばかりの知識があったからだが、もう一人は〝綺麗好き〟という性格だったのが理由だった。


「良かったじゃないか。掃除を一切しないネナの代わりに、毎日小屋を綺麗にしているんだろう? 木のテーブルを置いただけの机も、大分オシャレになったと聞いてる」

「……落ち着かない……物が勝手に動かされてる……居心地が悪い……」

「それが普通だ。整理整頓して、きちんとラベルを貼ってると聞いてるが……ネナが探してないだけだろう?」

「……あるじさま……人間の肩、持ってる」

「いや、ゴミ屋敷にする奴の肩は持てないだろ」


 鍛錬場の広場の端で、俺は鍛錬に励む人間を眺めていた。

 ネナは先程から不平を並べ、腕をグイグイ引いたり、体を回そうとしたり地味な嫌がらせを繰り返してた。


 なお既に血液は投与済みで、その直後は激しく上機嫌だったのは言うまでもない。


「……悪さをしてた人たちなのに……案外、真面目」

「誰かが強制しなくても、自分たちで進んで手伝ってくれている。もちろんダイゴの指示であることには違いないが……夢を経たれ、荒んでいただけの連中だったんだろうな」


 もし初心者狩りというきっかけさえなければ、悪事に手を染めることなく、冒険者の道を足掻いていたかもしれない。

 まあ、それは過ぎた話であり、これからも十分できることなのだ。


「……そういえば、ミツは?」

「お、お前が人の名前を覚えるなんて珍しいな」

「……うるさい」


 ネナは顔を伏せて、少し強めに足を蹴ってきた。

 人寄生型魔草人にとって、人間は等しくエネルギー源であり、個を認識することは少ない。

 特にネナは顕著なのだが……ミツのことを特別視しているのだろうか。


「……ライバル……あるじさまを、取り合ってる」

「あいつにその気はないと思うんだが……ま、いいか。ミツは今、ヴァーツラのとこで剣を学んでいる筈だ」


 あの日の戦い、自力で勝てず、制御できない力での勝利に不満を抱き、ストイックに鍛錬に励んでいる。

 ま、ヴァーツラなら俺より魔剣をうまく使う方法を教えられるだろうから、適任だろう。


「……あと……私のところにきた」

「ミツがか?」

「……うん。……毒のこと……教えてほしいって」


 薬草の知識があるネナなら、毒の扱いについての知識も備えているだろう。


「剣と毒……その二つを極められたら、かなり強くなるだろうな」

「……なる。おそらく、魔王と戦えるレベルにはなる」

「それほどまで、あの力が強力ってことか」


 ミツがダイゴとの戦いで見せた精神魔術〝罪毒〟。

 あの力を完全に制御できれば……かの勇者すら超える可能性がある。


「……ねえ、あるじさま」

「どうした?」

「……テオファニアからの……伝言、忘れてた」

「あいつから? 俺に?」


 ネナは頭に手を当て、うーんうーんと唸り始める。

 俺としては思い出さないでくれた方が助かる。テオファニアからの伝言なんて、ロクなものではないに決まっている。


「忘れてていいんじゃないか?」

「……思い出した」

「絶対忘れてなかったろ」

「……冒険者……街の外に、まだ出ないって」

「あいつにしては親切な情報だな。もしかしたら嫌味も含んでるのかもしれないが……まだ焦る時じゃない」


 初心者狩りの脅威を取り除いたが、まだ一週間も経っていない。

 一度根付いてしまった弱気を取り除くには、きっと時間が足りないのだろう。


「そういえば、ダイゴが座学でセニル周辺の魔物や地理、環境を教えているらしい。一通り外の情報を得てから、出発したいと思うやつは多いはずだ」

「……それなら……」


 ネナは途中で言葉を止め、鍛錬場の門の方に鋭い視線を向けた。


「……誰か……来る」

「ああ、来るな」


 一歩ずつ確認しながら歩いているのかと思うくらい、ゆっくりと確実にこちらの方に向かっている。貴族が、平民に自分の姿を見せつけるよう厭味ったらしく歩いてるときに似た歩調だった。


「ネナ、裏から自分の薬屋に戻っておいてくれ。何があってもいいようにな」

「……わかった」


 ネナは素直に頷き、すっと音もなくその場から立ち去った。

 初心者狩りのような、暴力で訴えかけるような相手ではない。強い敵意を持っているというわけでも無さそうだ。


 どのような相手であれ、来る者拒まずだ。

 協力してくれる者であろうが、障害となる者だろうが、まずは快く歓迎しよう。


 こほんと咳払いをし、俺は門の方へ歩を進めた。


読んでいただきありがとう御座います!

本日から新章です。いよいよ終盤に差し掛かってきました。最後までお付き合い頂けますと幸いです。


次の更新は4月25日㈭です。

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