表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/38

夢を諦めた者

 日が落ち、屋敷が闇と静寂に包まれる。

 ダイゴ以外の全ての初心者狩りがネナの根によって縛り上げられ、一階のエントランスに座らされていた。根によって魔力を吸い続けられているため、誰もが諦観した表情で俯いていた。


 三階の部屋の中には、俺とヴァーツラ、ミツ、ダイゴがいる。ダイゴは部下と同じように根で縛られ、腕を組んで仁王立ちしているヴァーツラに監視されていた。


 俺はソファで横たわっているネナの隣で.ミツの目覚めを待っていた。


「ん……」


 ミツが小さく呻き、まぶたをぴくっと震わせる。

 ゆっくりと目を開け、数度瞬きしてから俺へと目を移した。


 ぱちくりと二三度瞬きしたあと、


「せん……せい……」

「ああ、俺だ。よく頑張ったな」

「先生っ! ……ふぎゅぅ」


 飛びついてきたミツの顔を片手で受け止める。


「さっきは驚かせて済まなかったな。ネナに治してもらったんだ」

「そうだったんですか……。って、私今まで一体……」


 ミツは少し考え込み、顔が真っ青になった。


「私……人を……」

「大丈夫だ。初心者狩りのボスは死んでない。アイツもネナに治してもらった」

「よかった……後でネナさんにお礼を言わなきゃですね」


 ミツはほっと安堵の表情を見せた。

 それは自分の天手が汚れなかったことによる安堵なのか、望まない犠牲者を出さなかった安堵なのか……いずれにせよ、対人戦闘における致命的な弱点になりそうだ。


「さて、ミツも起きたことだから、お前たちの処遇について話し合うか」


 ダイゴの方へ向き直るが、彼は項垂れたまま反応を示さない。


「その前に一つ聞いておきたい。〝初心者狩り〟とは何だ? どういう経緯で作られ、どんな目的を持って行動していた?」


 俺の質問に、ダイゴは鼻で笑った。


「はっ。それを聞いたところで何になるって言うんだ? 殺すならとっとと殺してくれ」

「セニルに手を出した以上、命だけでは済まさない。お前も……お前の仲間もな」

「何をさせる気だ?」


 仲間と言った瞬間、僅かにダイゴの顔が歪む。

 その反応を見て俺は安堵した。彼が根っからの悪人であるなら、俺は容赦なく切り捨てた。だが、僅かにでも良心ある人間ならば利用するに値する。


「なに、そう難しくない。セニルで転生者への指南をして欲しい」

「……正気か? 俺はそいつらを狙わせていたんだぞ?」

「至って正気だ。少なくとも実戦経験があり、数多の初心者を相手にしたからこそ、俺達にはできない指導が出来る。リュリュやミツよりも親身な指導がな。そして、もし一人でも育て上げることができ、冒険者に戻りたいというやつがいたら尊重しようと思う」


 ダイゴが目覚める前、俺はリュリュから初心者狩りがどのような集団なのか既に聞いていた。


 初心者狩りは、何らかの理由で冒険者を諦めた転生者が集まって出来た集団だった。ダイゴもまたその一人で、10年ほど前までは真っ当に冒険者をしていたらしい。


「別に完全に冒険者への興味がないって言うなら、少し手伝ってくれれば後は自由にしてくれて構わない。もちろん、俺らの鍛錬を受けて再び冒険者を目指すのもありだ。どうだ、悪い提案じゃないだろう?」

「……俺だけならともかく、アイツらのことを引き合いに出すとはな」


 人質をとっているつもりは毛頭ない。互いにとって利益になればいいと思っただけだ。


 俺が目指すセニルの改革は、俺らがいなくとも機能するようにしなくてはならない。誰が指揮しようが関係なく、自発的に街のために働く……そんな人が増えなければ、自立はできないだろう。


 だから、強制はさせない。あくまで自分の意志で、だ。

 ダイゴは大きくため息をついて、肩を落とした。


「好きにしてくれ。どうせ俺に選択肢は無いんだろ」

「お前にだって選択肢はある。一緒にセニルに来るか、俺の目の届かない場所に逃げるか」

「……復讐の可能性を考えないのか?」

「その点は心配ないよ」


 どこからともなく現れたリュリュが、ダイゴににっこり笑いかける。久しぶりに暴れまわったためか、顔の艶が良くなっているように見えた。


「こども……?」

「妖精、だよ。僕は人の悪意を察知できる。従うフリして復讐を狙ってたり、寝静まった夜に奇襲をかけようとしても……僕にはまるわかりだからね」

「そんな馬鹿な」

「実際、僕はこの能力でセニルに潜んだ初心者狩りを見つけ、捕縛できた。嘘と思うなら試せばいいさ。ただし……今回のように五体満足で生かしてあげられる保証はないけどね」


 リュリュはダイゴの前にしゃがみ込む。


「僕を出し抜いても、そこにいる龍人や下にいる魔草人は僕より数倍も厄介だよ。だからこそ、誰もが安全に冒険者になれる。だれにも、冒険者になる道を阻害させない。……ね? いい街でしょう?」


 ダイゴは呆れた笑いを浮かべた。


「はは、こりゃ打つ手無しだな。ったく、セニルはいつの間に化け物を抱え込むようになったんだ」

「失敬だね。けど、その化け物のおかげで街は変わってるんだよ。君が狙う価値になる街にね」

「違いない」


 ダイゴは俺へと顔を向けた。

 先程まで目に宿っていた敵意はもう無かった。


「お前の名は何という?」

「〝ウラボス〟だ」

「ウラボスさんよ、あいつらの諦めた夢を叶えてくれ。正直、このままここで腐らせるには惜しい連中だ。俺も……そのための手伝いをさせてもらいたい」

「勿論だ」


 俺はダイゴを縛り付ける縄を解いた。

 ゆっくりと立ち上がり、ぱんぱんとズボンについた汚れを払う。しかしさすがというべきか、ネナの治癒により後遺症のようなものはまるで見られない。まあ、礼を言わなくともしっかり血は吸われるのだろうが。


「だが、見極めさせてもらう。俺の部下を、ただ私利私欲のために利用しているだけならば……例えこの命に変えても、抗ってやる」

「構わないさ。その位のほうが俺としてもありがたい」


 約三時間に渡る戦闘の末、初心者狩りは解体となった。


 正直なところ、一人か二人仲間にできたらいいと思っていたが、どうやら全員が協力してくれそうだ。転生者の先輩として、親身な存在として冒険初心者を後押ししてくれるだろう。


 そして、この戦いで明らかになったミツの弱点。

 争いとは関係のない世界で生きてきた者であれば、誰もが立ち向かわなければならない対人戦闘。


 多少手荒なことをしてでも、解決すべきだろう。


読んでいただきありがとう御座います。


やっとこさ更新できました……遅くなりすみませんでした。土日に時間が取れないのはきついっすね……。


次回更新は4/22㈪の予定です。

今週末は時間が取れるので、一気に書き溜めます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ