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ウラボス先生の正体は?

 「はあっ!」


 気合の入った声とともに、鋭い斬撃が俺の首へと迫る。俺の動きを遥かに上回る速さの一閃。

 肌へと触れる直前、ミツの剣はぴたりと止まった。


「やった……やっと先生に勝った……!」


 水浸しにであるにも関わらず、ミツは鍛錬場に倒れ込んだ。

 昼間の指導の後、毎日ミツと特訓を行っていた。特訓と言っても、魔術を使いながら剣で切り合うだけだ。俺は剣術や立ち回りを教える器用さがない。動きで体に覚えてもらうのが一番いい。


 おかげで俺の体力や筋力も鍛えられたが、それ以上にミツの成長が早かった。魔術の腕前も、体捌きも、教えたこと以上のものを身につけていた。


 そして今晩、初めて俺の喉元に剣を届かせた。


「やるな……ミツ……さすがだ……」

「えへへ」


 ミツは心底嬉しそうに微笑んだ。


 色々な転生者を見て改めて思ったが、やはりミツは魔術師として特別な力を持っている。学習能力の早さもそうだが、ミツの限界点が全くもって見えて来ない。魔力量だって、俺と初めて会ったときから倍以上に増えている。


「先生、お祝いに私の質問に答えてもらっていいですか?」

「ああ。何でも言ってくれ」

「ウラボス先生って何者なんですか?」


 またか、と俺は頭を抱えた。

 ミツは事あるごとに、俺の正体を探ろうとしている。ヴァーツラやテオファニアも、こっそりと聞きに行ったことがあるらしい。


「そんなに気になることか? 俺は少し人脈の広いだけの、冒険者指導を目指す――」

「違和感、です。ウラボス先生が来てから、この街は一気に変わりました。それは私の望みであり、セニルの望みでもあるのは分かってます。けれど……うまく変わりすぎてる気がするんです」


 ミツは上半身を起こし、真剣な目を向ける。

 うまく行き過ぎていると言われても、この街は急ぎ治さなければいけないほど、はじまりの街として重症だった。


「やろうと思えば、ヴァーツラさんたちとこの街を乗っ取ることもできるでしょう」

「魔物を信用してないのか?」

「……強いて言うなら〝怖い〟です。たとえ私の望んでいる方向だとしても〝抗えない力〟で流れていることが」


 心ひとつ変われば、この街は一瞬で滅びる。

 確かにそれは紛うこと無き事実なのだが……普通、そこまで考えを巡らせるだろうか? 過去にそのような経験をしたのならまだしも……。


 ……。


 ……いや、もしかしたら。


「分かったよ。少しだけなら話してやろう」

「少しだけ、ですか」


 疑問や躊躇いを持ったままいるのは、決して鍛錬場の後継者として良くない。そのような感情は時と共に膨れ上がり、気付いた頃には取り返しがつかないことになっている時もある。


 だから少しだけ、ネタばらしをすることにした。


「強い魔物には必ず、抗いようの無い弱点が存在する。だから、気軽に種族を名乗ることは出来ないんだ」

「そうなんですか……って、え? 先生が魔物……?」


 ミツの驚きように、思わず笑ってしまう。


「リュリュと同じで、外見だけなら人間と大差ない魔物は普通にいるだろ」

「そうかもしれないですけど……なんていうか、全てが人間っぽいっていうか……。言葉で表しにくいのですが、リュリュくんやテオファニアさんも、どこか〝人間じゃない〟感じがするんですよね」

「そうか。俺には分からない感覚だな……。人間の生活に一番馴染み深いのは、リュリュなんだが」


 より人間を演じることが出来ているという意味では、喜ぶべきなのだろうか。


「魔物である俺が、どうして強い魔物を引き連れてこの街の冒険者を育てているか。動機は単純で、魔王の勢力に抗って欲しいからだ」


 ミツは不思議そうに目を瞬かせた。


「でも、魔王って魔物の王さまじゃないんですか?」

「必ずしも全ての魔物が、魔王のやり方を是としているわけじゃない。それに、俺のように自由に生きたい魔物も配下にはならないしな」


 魔物も人間も変わらない。

 無理に従えたところで、裏切りのリスクが増すだけである。人間との全面戦争時ならまだしも、平和な時代にリスクを背負ってまで兵を増やす理由はない。


「そうなんですね……知りませんでした」

「簡単な話、俺は人間が好きだから、人間のために動く。ヴァーツラにテオファニア、ネナ、リュリュも同じだ。そしてそいつらは、力を持ってるからこそ人の役に立てる」


 俺は床に座り込み、何もない天井を見上げた。


「おれらが掌を返せば、確かにこの街は終わるかもしれない。だが、この街をはじまりの街に戻した力があるのも事実だろ? 結果を残し、ミツには真実も告げた。これでもまだ信じられないなら、首を差し出す他無いな」

「……ずるいです、その言い方」

「ずるいも何も、俺から言えることはもう無いんだ。差し出せる物は首しかあるまい?」


 そう、ミツにはこれ以上真実を伝えられない。

 伝えた先に待つのは、地獄でしかないんだから。


「それより、ミツ。鍛錬を次のステップに移そうと思うのだが、どうだろう?」

「次のステップ? なんですか!?」


 表情をころっと変え、身を乗り出して俺に次の言葉をせがむ。

 この純真さは、いつ見ても心地よい。


「教える前に一つ問題だ。魔術使い同士の闘いで、一番大切なのは何だと思う? これは人間対人間でも、人間対魔物でも変わらないことだ」

「えーと……かなり難題ですね……いや、ちょっと待ってくださいね……ここまで出かけてるので……」


 そういえば、ミツはこの世界でまだ魔術を使った真剣な戦いをしたことがないのか。だとしたら、この問題は荷が重すぎたか。

 だが、これから冒険者として……魔術師として成長するためには必要なことだ。


「分かりました! 〝先手必勝〟です!」

「なるほど。ミツらしい回答だが、それは何故だ?」

「魔術を当てなければ勝てず、当たらなければ負けない……なら、先に当て続ければいいんです! 方法は分かんないですけど……」


 俺は思わず笑ってしまった。


「なんで笑うんですか!」

「いや、それはこの問題の答えじゃなくて、ミツ自身の持論だろう?」

「あっ……たしかに……」

「でも、大きく外れているわけじゃない」


 俺は立ち上がり、風の魔術で濡れた部屋全体を乾かす。


「大切なのは〝定石の構築〟だ」

「じょうせき……?」

「簡単に言えば、どんな状況でも必ず魔術が成功するパターンを作り出すということだ。基本的に、戦闘における魔術はもろに喰らえば即アウトだ。逆に言えば、一度でも魔術を決めることができればほぼ勝ちになると言っていい」


 ミツは額に皺を寄せながら、俺の言葉を噛み砕こうとする。なかなかこの理論は口にすると難しいな。 


「……簡単に言うなら、如何なる敵・状況であっても〝必殺技〟を決められるようにするってのが大事なんだ」

「なるほどですね! ミツにもやっと理解できました!」


 漫画で得た言葉が、ここで活きるとは思わなかった。


「ここで大事なのは、必殺技をどう当てに行くかと、当てたら絶対に成功するようにする……この二点だ。前者については、ミツの素早さを活かせるだろう。それこそ、不意をつく技術は間違いなく有効だ」


 万全ではないといえ、俺の動きと認識を上回る速度の攻撃をミツは繰り出せる。ある程度の強さを持った魔術師や魔物でも、十分に届きうるだろう。


 だが問題なのはその先だ。


「ということは……必殺技のほうですか」

「ああ。ミツが得意とする魔術はあくまで動きをサポートするだけで、攻撃の決め手にはならない。ということで、次のステップは〝必殺技を使えるようにする〟だ」

読んでいただきありがとうございます!

投稿が一日遅れてしまいすみません……。


次の更新は3月15日(金)です!

次は間に合わせます!


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