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「境界トワイライト」①

午前5時、南方はアラーム音で目を覚ました。南方はもぞもぞと毛布から抜け出す。

(ここにいるってことは、これが現実か……)

南方は寝ぼけた頭を覚醒させるために化粧室で顔を洗うと、ドリンクバーでお気に入りのレモンティーを淹れる。

出来上がりを待っていると、端末に日吉からメッセージが入った。

『おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?6時15分に昨日お別れしたところに車を回しますので、そちらでお待ちいただければと思います。朝食もしっかり摂ってくださいね。日吉』

(え、そんなに早いんだ。カフェで優雅に朝食でも、と思ってたのに)

『了解です。よろしくお願いします。南方』

そう返信した南方はレモンティーを飲み干すと買ったばかりの服に袖を通し、身なりを整える。今日は一体どんな日になるのだろう。南方は会計を済ませ、待ち合わせ場所へと向かった。昨日買ったおにぎりをほおばりながら、南方は日吉を待つ。


程なくして、昨日と同じ真っ赤なスポーツカーが南方の前に止まった。

「おはようございます。南方さん。」

日吉は昨日と同じように、こちらまで回ってきてドアを開ける。

(だから執事かっつ―の)

「おはようございます。日吉さん」

身の丈に合わない待遇に顔がこわばりそうなのを必死に抑え、南方は努めてにこやかに挨拶する。逃れるように助手席に乗り込んだ。日吉も運転席に乗り込み、スポーツカーは走り出す。

「朝食は摂りました?」

爽やかに問いかける日吉。初対面の時とは本当にガラリと印象が変わったような気がする。まあ、胡散臭いことには変わりないか、と南方は独りごちる。

「はい。おにぎりを」

そういうと日吉はニヤリと笑う。

「あ、またツナマヨ?」

「ええ、まあ」

「好きですねえ、ツナマヨ」

契約書を読んだことで、好みなどもばれているのは容易に想像が付くのだが、ここまでとなると、まるで日吉とは昔馴染みの間柄であるような錯覚を南方は起こしそうになる。

(これ以上この話につきあうのはよそう)


南方は話題を変えることにした。

「昔はそうでもなかったんですけどね。ところで今日は何をするんですか?」

「ああ、昨日南方さんが不安そうにしてたので、今日は少し南方さんに特訓をしてもらおうかなって」

日吉はさらりと告げる。

「特訓、ですか」

「うん。南方さんには素晴らしい才能があるけど、それも上手く使えなければ宝の持ち腐れになっちゃうからね。その為の特訓だよ。数こなして、後はちょっとしたコツというか技を教えるから」

「はあ。よろしくお願いします」

日吉の浮かべた笑みが少しあくどいような気がする。特訓を意訳するなら星○雄馬の大リーグボール養成ギプス嵌めるから頑張ってということなのだろうか、南方は理解を半ば放棄しつつ返答した。フロントガラスをぼんやり眺める。車は都道305線を南下し、靖国通りへと左折した。

「行き先は聞かないんだね」

「あんまり関係ないでしょう。どこであろうとやること変わらなさそうですし」

(というか、そんなに土地柄に縛られるものなのか?)

昨日初めて「(ひずみ)(ひずみ)」を倒した南方には分からないが、そういう地縛霊的なものもあるのだろうか。

「つれないなあ」

なおも楽しそうにニヤリと笑う日吉に南方は問いかける。

「「(ひずみ)(ひずみ)」の現れる場所って、何か法則とかあるんですか?」

「あれ、この前話さなかったっけ」

「人が多くなればその分「(ひずみ)(ひずみ)」も増える、とは聞きましたけど」

一晩寝て少しばかり整理が付いたとは言え、ど素人の南方には分からないことだらけである。日吉は少し考えながら答えた。

「あー。うーん、なんていうかなあ。人が住んでると、いわくつきの場所とかも増えてくでしょう。だから、そういうのにつられて、ってのは往々にしてあるよ」

「なるほど。鰯の頭も信心からということですか」

「あはは、そうね。思いってのは、中々に馬鹿に出来ない力を秘めてるから」

そう告げる日吉の声は昨日自分に断言したものと同じようにまっすぐ南方に届く。

(どんなものに価値を見出すか、どこに何が潜むと感じるか、思いはそうやって世界をその人の見たいように変える力を持つってか。)

「確かに」

南方はそう短く返す。

「ほんと、南方さん理解早いよね」

日吉はどこか嬉しそうに呟いた。

「そうですか?」

ただ、そういうものなのだと受け止めているだけの南方は首を傾げる。

「そうだよ。だって生返事してるわけでもないんでしょ?」

「そりゃあ分かんなかったら何でって聞きますからね」

(自分から質問しているのに分からないまま聞き流すなんてもったいないじゃん)

南方は頷く。すると、日吉は笑い出した。今までのあくどい笑みではなく、心の底から笑っている。

「ハハッ!確かにそうだ。その通りだよ」

あーおかしい。と笑いが止まらなくなっている日吉に南方はぎょっとする。

「……日吉さん、疲れてます?」

「そうだね、分かってないのに分かったふりして動くやつが多くてさ」

(あっ地雷踏んだかも)

ご機嫌な日吉の横で南方は縮こまりながら目的地に着くのを今か今かと待つのだった。


「はーい、着いたよ」

日吉に声をかけられた南方は車を降り、辺りを見回す。

「ここって、迎賓館ですか?」

南方が日吉に連れて来られたのは迎賓館赤坂離宮であった。

「当たり。ま、建物じゃなくて庭に用があるんですけどね」

こっちだよ、と手招く日吉の三歩後ろを南方は歩く。西門から入った二人は簡単な手荷物検査を受けるとそのまま前庭に入った。

「ここ有料じゃ無いんですか?」

「そりゃあ私たちは仕事で要請されて来てる身ですから」

首から関係者の札を下げて二人は庭園を歩く。

「そういうものなんですね。サーチして手当たり次第、って感じなのかと思ってました」

南方は少し驚いた。比翼連理の本部には何かしらの大きな装置があってそれで「(ひずみ)」を探知しているのだと思っていたからだ。

「それじゃ仕事にならないでしょ。異常が起きてるとこを調べて、「(ひずみ)」の影響を確認したら翼人を送り込む。それが管理部側のお仕事」

ため息交じりに告げる日吉に少し笑いつつ、南方は庭園を見渡す。と、どこか胸騒ぎがした。

「日吉さん。ここの辺りなんですか、「(ひずみ)」がいるのは」

「あ、分かった?流石に筋が良いねえ。その通り」

南方はイヤホンを起動させる。瞬間、声がした。


〈クルシイ、ツライ。モウ、モウ、ドコニモイキタク、ナイ……〉

南方は声が聞こえる方向に意識を向ける。呼び込むように手を招く様が一度だけ見えた。

「どうしたの?」

南方は昨日と同じように「(ひずみ)」に問いかける。

〈キミモ、ツライデショ?ボクト、イッショニイヨウ。ボクハキミ、キミノコトナラナンデモシッテルヨ〉

(ひずみ)」は聞く耳を持たず、南方を誘い込もうと手を伸ばしてくる。南方は戸惑う。

(帰りたいわけでは無いのか、この子は)

そうなると、前のように帰り道を示して戻す、というわけにはいかない。

〈ネエ、ドウシタノ?ボクトイッショニイテクレナイノ?ボクハキミダヨ?サミシインデショ?ボクノトコニオイデヨ、キミモボクナンダカラ〉

(ひずみ)」は答えない南方に焦れているのか、誘い込む勢いが強まる。日吉は対応を迷う南方に一言告げた。

「南方さん。コイツは共鳴種。誘いに乗ったら、コイツの言いなりになってそのまま死ぬんだよ。コイツのせいで警備員はもう5人死んでる」

「えっ」

南方は慌てる。「(ひずみ)」にも様々なものがいるのは知っていたが、人を殺すやつまでいたとは思っていなかった。

(でもそうか……人死にが出るから対処させるわけだ)

「人の辛い、苦しい、そういう思いを増幅させてその命を奪う。奪った命を食らう、そういう迷惑極まりないやつなんだよ、こいつは」

〈サカシイ!ジャマヲスルナ、キバヲヌカレタサルニナニガデキル!〉

日吉が更に告げると「(ひずみ)」は怒りをあらわにする。

「私のことも、食べようとしてたの?」

〈コムスメナガラ、ウマソウナジョウモノ。コレホドイイエサハナイ〉

南方が問うと、「(ひずみ)」は嘲笑うように吐き捨てた。

「帰りたい場所は、ある?」

〈ソンナモノ、アルワケガナカロウガ。ソンナモノヨリキサマノイノチヲヨコセ!〉

(ひずみ)」は南方の身体に手を伸ばしてくる。

「おっと」

手が触れるすれすれのところで日吉に手を引かれ、間一髪南方は逃れた。が、「(ひずみ)」はこちらを強く睨んでいる。威圧的な雰囲気に、南方は気圧されそうになった。

「あちゃー、こんな大物とは。南方さん、だまされたと思ってさ、「開け、伊賦(いふ)夜坂(やさか)」って言って」

飄々と告げる日吉。

「それで、あの「(ひずみ)」はいなくなるんですか?」

(イフヤサカ、伊賦(いふ)夜坂(やさか)ってあの、伊弉冉尊の?冥界送りにしろってこと?)

日吉は頷く。事態を収束させるためにはそれしか方法は無いようだ。南方は戸惑いながらも、「(ひずみ)」に狙いを定めて唱える。

「開け、伊賦(いふ)夜坂(やさか)

風がゴウ、と音を立てて、重く、黒々とした扉、というよりか門が現れる。ギギギギ、と開いた門が、まるで掃除機でゴミを吸うかのように「(ひずみ)」を扉の向こうへと引きずり込んだ。

〈ギャアアアアアアアアアアアアア!!コムスメ、キサマ!ユルサヌ、ユルサヌゾオオオオオオオオオ!〉

(ひずみ)の断末魔を断ち切るように門が閉まる。昨日と同じく、門は用を果たすとそのまま消えた。


「はーい、任務完了!お疲れ様。中々大変だったねえ」

軽い口調で日吉が告げる。

「そ、ですか……。確かに、疲れた……」

南方は大きな扉を出してしまったせいなのか、足下がふらつく。

(こんなに疲れるの、「(ひずみ)」倒すのって……)

「大丈夫?」

日吉の呼ぶ声に答えようとするも、南方は膝から崩れ落ちたのだった。

閲覧ありがとうございます。分割二個目です。多分前作と同じように前後編で終わると思うのですが、念のためナンバーで分けることにしました。できる限りの早さで進めるつもりですが、続きはどうぞ気長にお待ちいただければと思います。

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