「宵待つはペオース」②
しばしぼーっとしていた南方は日吉にもらったリュックの中身を見ていないことに気づく。
(そういや何入ってんだろ。中身見てみるか)
いざ、開封。大きい方のポケットにはきれいめなビニール袋が入っていた。取り出してガサゴソと中を探ってみる。
(お、織鷲入ってる!やっぱ緑茶は織鷲だよね、日吉さん分かってるなあ。あとは……ツナマヨと鮭のおにぎりに、あ、バスタオル!てことはこっちのポーチがお風呂セットか!マジ至れり尽くせりじゃん)
しかもポーチの中には小さかったが化粧水と、小さいサイズの衣料用洗剤まで入っていたのだ、気遣いっぷりはホストを超えてもはやスパダリ級である。ネカフェ生活に対する不満もどこへやら、南方は日吉の心遣いにとても感心していた。
(おにぎり食べたらシャワー行こうかな……って、あ。着替えないじゃん……)
南方は大事なものを忘れていた。翌日の服である。明日のパンツがあれば生きていけると宣う日朝ライダーもいるがその下着すらない南方は結構な危機的状況である。南方は慌てたが、受付で手続きをすれば外出できることを思い出した。
(おにぎり食べたら服買いに行くか)
幸い時刻はまだ19時過ぎ、店が閉まっているということはない。南方はおにぎりを気持ち早めに食べると、夜の街へと繰り出すのだった。
池袋駅、東口。南方にとっては大手を振って歩ける数少ない都会エリア、それがここである。主にアニメショップ周りだけだが。南方はサンシャイン60通りの中にある大型衣料品店に入ると、南方は早速服を選ぶことにした。
(んー、あんま目立つのは趣味じゃないしな。適当にパーカーとチノパンと下着、あ、あと軽量ダウンジャケット買って戻ろう。あると何かと便利だろうし)
南方は無難な服を選ぶとレジ待ちの列に並んだ。支払用のアプリ「ペイダー」を起動させる。現在の残高を確認すると、そこには1,000,000円と書かれていた。
(えっ?)
現実味のない数字に南方は動揺する。契約書の中で、報酬は確かに良い金額がしたことは記憶しているが、まさかこれまでとは。
(現金給付じゃなくて良かった)
そんなことを考えていたら南方の番になっていた。店員は手際よく商品をレジにかけ、袋に詰めていく。
「支払いはどうなさいますか?」
「あ、ペイダーで」
南方がレジに端末を翳すと会計は終了した。南方は店を出る。
都会の夜道を闊歩している自分に少し酔いながら、南方は居酒屋の営業ボイスを受け流して来た道を戻った。ネットカフェの真下にあるコンビニで明日の朝食用にツナマヨのおにぎりを買う。寄り道しながら帰ったせいか、部屋に着いたときには21時になるか、というところだった。慌てながらシャワーブースで汗を流し、ドライヤーで髪を乾かす。
(6時にはここを出るから、0時には寝てないと駄目だよね。今日はあんま漫画読めそうにないなあ)
少しだけ残念だが、これから一ヶ月間はこの生活を続けるのだ。最初ぐらいぐっすり寝たって全巻読破には支障はないと南方は自分を納得させる。併設のランドリーに着ていた服を突っ込み、気になっていたが巻数が多く手の届かなかった漫画を手に洗濯が終わるのを待った。
南方が既刊全てを読み終えたとき、タイミングを見計らったように電子音が洗濯が完了した事を告げる。粗方服を取り出し、毛布をもう一枚貸し出しスペースから取ると、南方は部屋と戻った。
服をリュックにしまい、荷物を整理する。時刻は23時33分。少し早いが、明日のために南方は眠ることにした。
(明日起きてこの状況があるか分からないけど)
南方は部屋の明かりを落とし、毛布を被る。瞼を閉じても、彼らの顔が浮かぶことはなく、そのまま南方は眠りに就いたのだった。
閲覧ありがとうございます。
「宵待つはペオース」後編です。思いのほか短くまとまったので後で①②を合体させようか考え中です。2.3日はこのままにしておこうと思いますのであしからず。ネカフェって楽しいですよね、お店毎に結構コンセプトが違うので色々巡ってみたいです(笑)
できる限りを尽くしますが、続きはどうぞ気長にお待ちいただければと思います。