表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

「翼なきものの飛翔」

 思い立ったが吉日。古畑叶翠(ふるはたかなみ)はいつもとは逆方向の電車に乗り込む。朝のラッシュは苦痛だったが、今日限りだと思うと名残惜しかった。


 馬喰町から総武線に乗り換える。車窓から流れる景色を目に焼き付けた。並ぶビルの群れ、住宅地。トンネルを抜ければ、景色は一面の畑に変わる。もう二度と見ることのない、人の営み。車内の人の行き先は分からないが、自分の行き先には予想がつく。きっと地獄、石積みですめば上等だ。途中で買ったおにぎりに手を伸ばす。やはり旨い。ツナマヨは至高だ。昔はマヨネーズなんて大嫌いだったのに、今となってはやみつきになっている。出来ればもっと食べたかったな、なんて。


 死にに行くのに、何かを食べるのは逆転していた。


 銚子駅からバスに揺られること15分。昼過ぎになって、ようやく犬吠埼に到着した。潮の香りのする風が心地よい。辺りにある白い灯台の周りは平日とはいえど人が多かった。美しい景色、人々の笑う、声。

(―いつから、私は彼らを愛せなくなったのだろう、記憶が蘇る。あの、あの時の、忌々しい出来事がなければ、私は怯えることなく暮らせていたのだろうか。それとも、あの時、私が彼を信じなければ。そうすれば、こんなことをせずとも―)

 

 決断が鈍る前に、早く行かなければ。古畑は(かぶり)を振り、崖へ急いだ。崖から見下ろす海は台風接近のためか荒れていた。ちょうど良い、楽にとはいかないが、死ねないことはなさそうだ。ああ、やっと、やっとサヨナラできる。この苦しくて、辛い日々から。やっと逃れることができる。

 そのまま一歩踏み出した。


 さようなら。もう二度と戻らないであろう、大嫌いで、大好きな、私の世界。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ