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「開演十分前、糸は巡る」

「―と、いうわけなのでこの件は第一管理部の鴻上さんにお願いします。」

異界境(いかいきょう)保安管理局(ほあんかんりきょく)比翼連理(ひよくれんり)」局長室。スーツに身を包んだ三人の男女が話し込んでいた。

一人は白髪交じりの老獪な紳士、もとい局長の斑鳩(いかるが)。その隣に座る、日に透けるような金髪を流した、ブルーグレーの瞳の女。冷徹な目で辞令を告げるのは統括管理官の鷺宮(さぎのみや)である。

「は、かしこまりました。」

第一管理部主任管理官の鴻上(こうがみ)は直角に御辞儀をし、書類を受け取る。出世は男の本懐。鴻上は同期の中ではトップの業績を誇り、所属五期目にして花形の第一管理部主任を任されている。着々と出世街道を進む鴻上にとってこれは日常的に処理される一件に過ぎないはずだった、のだが。

一管(いちかん)ばっか増員するのはズルいですよ。その子だけでいいのでうちに回してくれません?」

どこからともなく現れたのは鴻上の同期で(あくまで鴻上が個人的にライバル視している)第二管理部主任管理官の日吉(ひよし)だ。この食えない男に鴻上は何度も手を焼いてきた。日吉は鴻上の側に取り込むことも出来ず、かといって蹴落とそうとすればこちらのハシゴを容赦なく外してくる、腹の底が読めない男である。しかし、この男の最も腹立たしいことは、鴻上を全く眼中に入れていないことであった。

「どこから沸いてきやがった、日吉。」

日吉はへらりと笑ってみせた。全くもって胡散臭い笑みである。

「そんなんどこでもいいだろ?俺は利益のためならどこでも行くし。ね、局長。一人ぐらいウチに下さいよ、管区手一杯なんですよ、ウチ」

斑鳩と日吉は視線を交わす。一瞬の交錯で、両者は静かに交渉を終えた。

「……そうだな、いいだろう。この「/」(スラッシュ)コードは二管(にかん)にやる」

「やった!ありがとうございます」

何時になく素直に喜ぶ日吉。この「/」は何か特別なのだろうか。書類を見る限り、一管に所属する他の翼人たちと何ら変わりはない。

「ノルマは変えんぞ、日吉」

「勿論、きちんとやらせますよ」

喜ぶ日吉に斑鳩は釘を刺した。脳内で真相を探る余り反応に遅れた鴻上は慌てて上司に噛みつく。

「な、局長!良いんですか、管理官。二管で「/」コードを預かるなんて!」

「局長がそう仰るのなら構いません。」

鷺宮は表情なく告げる。統括管理官の許しが出た以上、この話は覆らない。鴻上は抵抗を諦めた。人員が一人減ろうが正直どうでも良いのだが、日吉にしてやられたと言うことがとても気にくわない。

「くっ……。」

苦々しい思いで日吉を見やると、食えない男は口を三日月にして笑う。


「アハハ、ごめんねえ鴻上。一管がウチの1/3でも引き受けてくれればこんなことしなくても良いんだけどさ~」

「はっ、馬鹿なことを言うな。下働きはお前たちの仕事だ。ウチの仕事じゃない」

チマチマ低級を潰すのに一管を使うだなんてコスト度外視にも程がある。鴻上は局長たちに礼を告げると会議室を後にした。

「へーへ、「/」ちゃんと一緒に頑張りますよー」

この数ヶ月後、鴻上は己の判断を酷く後悔したのだが、それはまだ彼の日常を瓦解させる事案の序章でしかなかった。

初投稿になります。色々と至らない部分がありますがどうぞ温かい目でよろしくお願いします。

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