整合性
彼女が死んだ。
「整合性のないこと嫌いなのよね」
彼女はいつも正論を言う。
辻褄の合った正しく噛み合うその切り口に、俺はいつだってこうべを垂れるしかない。
「約束はちゃんと守ってよ」
俺がいつも破る側。
今日は仕事が長引いただけで、すっぽかしたわけじゃない。
「でもあたしは待ってたの」
待たせた事実は変わりない。
ごめんな、そう言って膨れた頬に触れると微かに顔を傾けてくる、手のひらに甘えを含んだ心地よい重さを感じる。
「約束だからね?もういなくならないでよ?」
何度目かの別れ話、何度目かの仲直り。
いつも正しく凛とした彼女のその目は、縋りつく子犬のようで。
もう離さない、なんてドラマでも漫画でも使い古された言葉を言い訳に彼女の体に手を伸ばした。
「愛してる、もう離さないから」
俺の下で熱に浮かされたようにしがみつく彼女の声も瞳も艶っぽく、その言葉の中身よりも、その色に夢中になった。
彼女が死んだ。
居眠り運転のトラックにはねられた。
でも原因なんてどうでもいい。
彼女がいない。
どこにもいない。
冷蔵庫に作り置かれた俺の好きな煮物。
彼女はいない。
「整合性」
独り声に出す。
「約束」
したじゃないか。
「駄目だろ?」
最後の約束を破ったのは彼女。
「俺は守るから」
最後の約束を守るよ。
そんなことは言い訳で。
「いつも言い訳ばっかり」
抜けるような青い空。
両手を広げる。
彼女を想う。
この彼女のいない世界に
サヨウナラ。