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婚約破棄からの出来事  作者: 巻乃
3/6

父の場合

「婚約破棄ですか?ええ。喜んでお受けいたしますわ!」


 私と私の親友の伯爵家同士で、家の息子と親友の娘で婚約を結んだが、いつまで経っても家の息子が煮え切らない態度でいて、私達父親2人がやきもきしていたのだ。そこで、親友の娘のご令嬢を巻き込んでの婚約破棄を私が思いつき、親友に持ち掛けたのだ。父親2人で話をした後、ご令嬢にも計画を話したので、今夜の婚約破棄が行われたのだった。


 そんなに辛そうな顔をするなら婚約破棄をしなければいいのに、馬鹿正直な息子が私達に乗せられて、婚約破棄をしたのだ。ご令嬢も、私の義娘が息子を隠れ蓑にして、自分の恋人と仲良くしているのが許せなかったらしく、この婚約破棄のお芝居にノリノリだったようだ。その証拠に、嬉しそうに婚約破棄を受け入れてるじゃないか。


 義娘は私の弟の娘だが、半年前に弟夫婦が事故で亡くなったので、親戚筋の私達の家で養子にしたのだ。それで、義娘の世話を息子にさせる為に、息子と同じ学園に転入させたのだった。少々風変わりな義娘だが、根が優しくて、変わってしまった自分の環境を嘆く事もなく、笑顔が弟夫婦を思い出させて可愛いし、しっかりしていたので安心していた。だが、娘がいなかった私は、義娘とどう付き合えばいいか分からず、ついつい息子に任せっきりにしていたのだが、学園の中で息子と義娘と婚約する為に、親友の所のご令嬢と婚約破棄をする寸前であるとの噂が広がったらしく、私と親友、その妻達までにも回って来たのだった。


 義娘には他に付き合っている男が居て、息子の友人が恋人で仲良くしているようだが、まだ婚約するまでは、いってなさそうだと私は判断していた。息子に親を亡くした寂しさを甘えて紛らわしているだけだと親友にもご令嬢にも話しておいたが、義娘が息子を隠れ蓑にして自分の恋人と仲良くしているのが許せなかったらしく、ご令嬢が義娘に注意をしたのが原因で、噂が消えずに拡大してしまったようだった。


 そこで、私達にまで噂が回ったと判断した息子が噂と本当の事を話してきたのだが、煮え切らない息子に一計を案じた私達の計画が漏れない様に気を付けて、一旦婚約者とは婚約破棄をして、様子を見て婚約し直せば良いと勧たら信じた息子が計画に乗ったので、今さっきの婚約破棄になったのだ。


 今夜の夜会では息子の友人のご当主に、息子が煮え切らないので一芝居をうった事を話し、事実とは全く違うと義娘の事を頼む為、長居をしたのだった。そうして、義娘を正式に紹介出来たので、こちらは一安心していたのだ。息子も、婚約破棄と浮気者扱いで居場所もないのだろうと判断したのだろう、その息子は庭園に出てから、あのまま帰宅したようだ。再婚約か結婚をすれば、この噂も消えてなくなり、あれはお芝居だったと後々、笑い話になるだろうと思っていたのだ。


 夜会の翌日の午後、私は息子を執務室へ呼んで話をしたのだ。嘘の婚約破棄話に真実味を持たせる為に。

「今朝早く、元婚約者の家から継続のない正式な婚約破棄をしたいと書簡が届いたので、お前の意思を確認したい。」と。


 何も言葉が出てこない息子を見て歯痒かった。ここまでして、まだ分からないのかと私は呆れた表情を浮かべたのだ。


「お前は今、17だ。18の成人目前に良い婚約者を捨てて粗悪な婚約者を娶らなければならなくなった。自業自得だ。あちらはもう次の婚約申し込みの書簡が続々と届いているだろう。その中から次の婚約者が選ばれて発表されて、すぐにでも結婚するんだろうな。」

「粗悪って、婚約者って何ですか。」

「気付いていなかったのか、義妹はお前の友人のあいつと恋仲で、既に友人の手付きで純潔ではない。だが、噂を否定するも小さくもせずにいた娘など、当家では娶るつもりはさらさらないと友人の家のご当主に言われたのだ。残るはお前が引き取るしかないだろう、だから粗悪だと言ったのだ。」嘘も方便だ。義娘は純潔だし、息子の友人との婚約ももうすぐになるだろう。


 私が、「あの娘が私の弟の娘で、お前の従妹だから誰の子か分からない子が産まれても、血筋的には問題ないから、あの娘は勝手にするだろうな。お前はお前で他でどうにかしろ。」と自覚して欲しくて、言い捨てた言葉に傷付いたのだろうか、息子の顔色が悪かった。その日を境に、息子は自室から出なくなった。人に会いたくないようだ。私や妻、義娘に友人の彼までもが息子にドア越しに呼びかけたり、声をかけたりしても、息子からは一切の返答がないのだ。


 引きこもっていても、息子の今の状況がどうにもならないのは分かっているだろうに。この状況をどうにか出来るのは息子しかいないのに、早く気付けばいいのにと私を含め、屋敷の皆も楽観的に構えていたのだ。どうせ夜中には部屋から出て、何かを口にしているだろうと。


 だが、7日経っても息子が部屋から出て来た形跡がない、食料庫の中身も予定通りの消費で息子が食べた様子もないと、執事が報告してきたのだ。どこまで馬鹿真面目で救いようのない息子なのだと更に呆れ、執事には様子を細かく見るだけでいいと言い捨てたのだ。融通の利かない馬鹿な息子にただ腹が立つ。


 そうして、飲まず食わずに引きこもっていた息子の部屋から、何も物音がしなくなり、これはマズい事になっているのではと執事からの焦った報告に、私が執事に命じて息子の部屋の鍵を壊して部屋の中に入ったのだった。


 息子の部屋はカーテンが閉まっていて薄暗かった。その薄暗い部屋のベッドの上に目を閉じていて、私達の必死の呼びかけにも反応しなくなっていた息子がいた。私と執事が息子に触れるとまだ息もしていて、体温もあるので、屋敷の者に、とにかく一刻でも急いで医師を呼びに行かせたのだ。


 急いで呼んだ、息子の診察と処置をした医師に「こんなになるまで放っておいて!それでもあなた達は家族なんですか!」と怒鳴られた。医師に診せたし、これで大丈夫かと思っていた私達に、医師から「この状態では、いつ何があってもおかしくありません。回復するかどうかは五分五分です。会わせたい人がいるなら、会わせた方がいいかもしれません。それだけ今は危険です。私も隣の部屋で待機しますので、何かありましたら、すぐ呼んで下さい。」と言い残して、執事の案内で息子の寝室の隣の部屋へ下がってしまったのだった。


 こんな事になるなら、息子をここまで追い詰めるんじゃなかったと今になって後悔したが、身体にうまく力が入らず、膝からガックリと倒れこんでしまい、何も言葉が出ずに涙が零れてくる。妻は泣きながら倒れそうになっていたようで、メイドに支えられて部屋へ戻って行ったようだ。義娘も唖然として暫く動けなくなっていたようだが、息子に、義兄の元婚約者を会わせてもいいかどうかを私に尋ねてきたのだ。私から了承の返事をもらってすぐ、家の馬車で私の親友の家まで、元婚約者の家まで向かったようだった。


 暫くして、私の親友とその娘のご令嬢が息子の部屋に急いでやって来た。親友とご令嬢に、息子が引きこもる前に私が話した内容を語ると、冷静な目をした親友に言われたのだ。


「もう婚約者は戻ってこないと言われた上に、自分が必要でないと宣言されたのだ。彼は人生に絶望したのだろう。義妹に親切にした事も、今までの努力も何もかも全部を否定されたので、生きる気力まで失くしたのだろうな。義娘がいれば彼がいなくなったって跡継ぎがいるのだからと、君は息子をそこまで追い詰めて、一体何がしたかったんだい。私は最初からこの婚約破棄の話を聞いた後、君に隠れて、時期を見て彼には話そうと思っていたんだよ。それで様子を見ていたが、こんな事になってしまった。何故こんなに息子へ厳しくし過ぎるのかは、息子のいない私には理解出来ないのだが。君は息子を褒めた事があるのか聞いてみたくなったよ。」


 私は今まで、息子と話した内容を思い出せるだけ思い出してみたが、叱責をしたり、厳しく言った覚えは沢山あるし、息子に呆れて何も言わずに目の前から追い出した事も沢山あるが、息子を一度も褒めたり認めたりしていない事に気付き、愕然とした。これでは昔、私が父からされて嫌だった事をそのまま、自分の息子にしていただけだったのだ、私は父の様にならないと心のうちで思っていた事でさえ、実行出来ていなかったのだと後悔しか浮かばなかった。


「小父様、私は今まで彼の口から、小父様の悪口や愚痴を聞いた事はございませんわ。彼は、父上は一度も褒めてくれないし、出来て当たり前の事が出来ないと厳しく怒られてしまうんだ、どうしたらいいか悩んでいると、私に一度だけ話をしてくれたのですわ。私も何て答えたらいいか分からなくて、彼に微笑んで話を聞いただけになってしまいましたが。きっと出来ない事に悔し涙を流して、歯を食いしばりながら、ずっと努力を続けてきたのですわ。でなければ、学園での上位の成績を入学以来ずっと維持出来る筈がありませんわ。」


 そうか、息子は私の悪口も言わずに一人で悩んでいたのか。義娘がいれば、息子がいなくなったって跡継ぎがいるのだからと言ったのは私だ。私の父はそこまで私を追い詰めなかった、反発すれば、その理由を話してくれていた。私は、息子にその理由さえ自分で見付けろと呆れてみるだけで、息子には反発する隙も暇も与えずに、只々(ただただ)突き放していただけだった。


 とにかく、親友とご令嬢に息子に会ってやってくれと言った私を気の毒に思ったのか、息子に会ってもらったのだが、親友とご令嬢の表情が真顔になり、2人して此処から動かないと言われてしまったのだ。

「未来の息子が危ないのに、のこのこ帰れるか!」

「私も未来の夫が危険なのに、おちおちしていられませんわ!」


 そうこうしているうちに、親友の家から、「半年前に両親を亡くしたばかりの義娘が、息子の件を話した途端に気が抜けたように、ショックを受けて震えているし、動けなくなっているので、こちらで義娘を預かる」旨を記した親友の細君からの書簡と共に、2人の着替えやその他に必要な物が馬車で届いたのだった。

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