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婚約破棄からの出来事  作者: 巻乃
2/6

義妹の場合

「婚約破棄ですか?ええ。喜んでお受けいたしますわ!」


 義兄が婚約破棄を宣言した夜会で、義兄の婚約者からの婚約破棄に対する答えに傷ついた顔をしている義兄。そんな顔をするくらいなら、私がくっついても引き剥がせばいいのにと思っていた。義兄の腕にしがみ付いている私はニッコリと微笑んで、周りからは嬉しそうに見えるよう、笑顔を作ったのだった。


私は、義兄の父方の従兄で、両親を事故で亡くしたからか、親戚筋の伯爵家の養子になりました。それで、この学園に転入しました。堅物で面白味のない少々融通の利かない従兄だけど、根は親切で、変わってしまった私の環境を心配して、笑顔で接してくれる、両親を思い出して寂しくなった私が甘えても、露骨に嫌がったり避けたりしないのです。そのせいで、学園の中で私が義兄と婚約する為に、義兄が今の婚約者と婚約破棄をする寸前であるとの噂が広まってしまった。


 私には皆に内緒で付き合っている男性(ひと)がいる。義兄の一番の友人である彼が私の恋人なのです。義兄に甘えるとやきもちを妬いてくれるので、ついつい彼の前で、義兄にわざと甘えてみたりした事が何度もあるし。その度に彼が私のベッタリするのが嬉しくて、繰り返していたら、義兄の婚約者様から「私の婚約者にワザとくっつかないで!」と、こちらも何度か苦言を言われてしまった。それを見ていた誰かが面白半分で話して回ったんだろうと思う、噂が消えずに拡大してしまったのだけど。


 とうとう義父や義母の耳にも噂が入ってしまったようで、そこで義兄が家族に噂と本当の事を話したら、義父から義兄に「一旦、婚約者とは婚約破棄をして、様子を見て婚約し直せば良い。」と言葉巧みに義父の奸計に乗せられていた。義父に勧められた義兄が、馬鹿素直に今さっき、婚約破棄をしたのだった。


 そんなに凹んだ顔をするならどうして義兄は婚約破棄をしたのか、私には一切分からないわと、考える事を放棄して、私は義兄の腕を引っ張って歩いていきました。義兄の友人の彼は私の恋人で、その彼と待ち合わせをしていた庭園まで義兄を引っ張て来たのです。庭園には私の恋人がいました。彼は先に来ていたのにも関わらずイライラしている様子で、ベンチにも座らず立ったままで私達を待っていました。


「オレの言った通りになっただろ。あれだけ気を付けろって言ってやったのに。」

「義妹が甘えてくるだけ受け止めていただけなんだが。」と義兄が答えて、「頭は良くても馬鹿だな、お前。」と彼に言われていたのでした。


「逆に考えろよなー、お前の婚約者に四六時中、婚約者の出来たばかりの義弟がくっついていて離れない。むしろ甘えてくるのも拒まないで仲良くしていた姿をお前が見たらどう思うか、その無駄に勉強だけは出来る頭で考えろ!お前の心は何にも感じないのか!」と言いきったのだが、義兄はそれを考えた事が無かったのか、目を真ん丸くして面白い顔をしていました。


 そして、義兄に言うだけ言った彼は「オレはもう帰る。」と帰ってしまいました。帰る彼を見て、義兄にこの後はどうするのかを聞かれたので、「まだ夜会を楽しみたいので、父上や母上と一緒に帰ります。」と答えておきました。どうせ夜会では義兄の婚約破棄が話題になり、義兄が浮気者として扱われて居場所もないだろうと思っていたら、義兄は私の横を通り過ぎて、そのまま素直に帰っていったのでした。


 夜会の翌日の午後、義父から義兄が執務室へ呼びだされたようです。そして、元婚約者だった彼女と再婚約は出来なくなって、私を婚約者にしなくてはならない事。友人の彼と私が恋人である事実を知らされたらしい。その時、義兄の顔色が悪かったのを義父から聞かされた屋敷に皆は、仕方が無いかと思っていただけでした。


 その日を境に、義兄が自室から出なくなりました。人に会いたくないみたい。義父や義母、私に友人の彼までもが義兄にドア越しに呼びかけたり、声をかけても、一切の返答をしなかったのです。


 引きこもっていても、義兄の今の状況がどうにもならないのは分かっているだろうに。この状況をどうにか出来るのは義兄しかいないのに、早く気付けばいいのにと私を含め、屋敷の皆も楽観的に構えていたのでした。


 そうして、飲まず食わずに引きこもっていた義兄の部屋から、何も物音がしなくなり、これはマズい事になっているのではと焦った義父が執事に命じて、義兄の部屋の鍵を壊して部屋の中に入ったのでした。


 義兄の部屋はカーテンが閉まっていて薄暗かった。その薄暗い部屋のベッドの上に目を閉じていて、私達の呼びかけにも反応しない義兄がいました。義父と執事が義兄に触れると息もしていて、体温もあるので、屋敷の者に、とにかく少しでも急いで医師を呼びに行かせたのでした。


 急いで呼んで、義兄の診察と処置をした医師に「こんなになるまで放っておいて!それでもあなた達は家族なんですか!」と怒鳴られてしまいました。医師に義兄を診せたから、これでもう大丈夫だとか、一安心だとかと思っていた屋敷の皆に、医師から「この状態では、いつ何があってもおかしくありません。回復するかどうかは五分五分です。会わせたい人がいるなら、会わせた方がいいかもしれません。それだけ今は危険です。私も隣の部屋で待機しますので、何かありましたら、すぐ呼んで下さい。」と言い残して、義兄の寝室の隣の部屋へ下がってしまったのです…。


 義父は膝からガックリと倒れこんで、無言で泣いているし、義母は泣きながら倒れそうになって、メイドに支えられて部屋へ戻って行きました。私も唖然としてしまい暫く動けなくなっていましたが、半年前に両親を亡くした私を助けてくれた義兄をどうしても回復させたくて、義兄の元婚約者に会わせてもいいかどうかを義父に尋ねたのです。義父から了承の返事をもらってすぐ、私は家の馬車で元婚約者の家まで向かいました。

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