表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄からの出来事  作者: 巻乃
1/6

俺の場合1

「婚約破棄ですか?ええ。喜んでお受けいたしますわ!」


 俺の婚約者だった女性に婚約破棄を嬉しそうに承諾され、俺は勝手に傷ついた。俺が言い出した事だが、そんなに俺と婚約しているのが苦痛だったのかと凹んだりもしたが、俺の腕にしがみ付いている義妹は婚約破棄を喜んでいる。


 義妹は、俺の父方の従妹で両親を事故で亡くしたので、親戚筋の俺の家で養子にした。それで、この学園に転入して来たのだ。少々風変わりな従妹だが、根が優しくて、変わってしまった自分の環境を嘆く事もなく、笑顔が可愛いくて、俺にも甘えてくるので、ついつい構っていたのだが、学園の中では俺が義妹と婚約する為に今の婚約者と婚約破棄をする寸前であるとの噂が広まった。


「義妹には他に付き合っている男が居る訳ではなさそうだし、兄になった俺に甘えているだけだ。」と婚約者にも話して、改めて婚約者に義妹を紹介をしたのだが、何故か噂が消えずに拡大してしまったのだ。


 とうとう父上や母上の耳にも噂が入ってしまったようで、そこで家族に噂と本当の事を話したらば、「一旦婚約者とは婚約破棄をして、様子を見て婚約し直せば良い。」と父上に勧められたので、今さっきの婚約破棄になったのだ。


 俺は自分の婚約者が嫌いではない。どっちかというと好きである。激しい恋ではなくとも、側にいると安心出来るし、穏やかな時間を過ごせると俺が告げたら微笑む婚約者が気に入っていたのだ。それに、今までは嫌われている様子も何も無かった筈だし、嫌われるような事をしていないのに、どうして俺からの婚約破棄を喜ばれているんだろう。やっぱり陰では嫌われていたんだろうか、そんな考え事に浸っている間に、義妹が俺の腕を引っ張って歩いていた。義妹に引っ張られるままにしておいたからだろうか、いつの間にか夜会の開かれている邸宅の庭園に出ていた。


 そこには悪友のあいつがいた。

「オレの言った通りになっただろ。あれだけ気を付けろって言ってやったのに。」

「義妹が甘えてくるだけ受け止めていただけなんだが。」と俺が答えると、「頭は良くても馬鹿だな、お前。」と言われた。


「逆に考えろよなー、お前の婚約者に四六時中、婚約者の出来たばかりの義弟がくっついていて離れない。むしろ甘えてくるのも拒まないで仲良くしていた姿をお前が見たらどう思うか、その無駄に勉強だけは出来る頭で考えろ!お前の心は何にも感じないのか!」と言われたのだ。


 そして、俺に言うだけ言ったあいつは「オレはもう帰る。」と帰っていった。帰る悪友を見て、義妹にこの後はどうするのかを聞いた。義妹に「まだ夜会を楽しみたいので、父上や母上と一緒に帰ります。」と言われたので、どうせ夜会では俺が浮気者として扱われて居場所もないだろうし、ここでは騒がしくてゆっくり自分に向き合えないし、自分でまだいろいろ考えたいしと、俺はそのまま素直に帰ったのだった。


 夜会の翌日の午後、父上から執務室へ呼びだされた。

「今朝早く、元婚約者の家から継続のない正式な婚約破棄をしたいと書簡が届いたので、お前の意思を確認したい。」と言われたのだ。


 一旦、ではなく永久な婚約破棄になると聞かされた俺は、頭の中が真っ白になってしまい、何も言葉が出てこなかった。それを見ていた父上に呆れた表情をされたのだが。


「お前は今、17だ。18の成人目前に良い婚約者を捨てて粗悪な婚約者を娶らなければならなくなった。自業自得だ。あちらはもう次の婚約申し込みの書簡が続々と届いているだろう。その中から次の婚約者が選ばれて発表されて、すぐにでも結婚するんだろうな。」

「粗悪って、婚約者って何ですか。」

「気付いていなかったのか、義妹はお前の友人のあいつと恋仲で、既に友人の手付きで純潔ではない。だが、噂を否定するも小さくもせずにいた娘など、当家では娶るつもりはさらさらないと友人の家のご当主に言われたのだ。残るはお前が引き取るしかないだろう、だから粗悪だと言ったのだ。」


 俺は勉強だけ出来ればいいと周りを見もしなかった。悪友と言っても、他に何人かの友人もいるが、あいつだけは俺に色々と構って来て心の中では親友のつもりでいたのだ。その悪友が義妹と出来ていた。学園に義妹が入ってから半年間、俺は今まで何も見もせず、知りもせずにいた俺自身のツケが回って来たのだと思った。父上の言う通りだ、だが、仕方なく義妹と結婚しなくてはならないのかと落胆もしたのだ。


 父が、「あの娘が私の弟の娘で、お前の従妹だから誰の子か分からない子が産まれても、血筋的には問題ないから、あの娘は勝手にするだろうな。お前はお前で他でどうにかしろ。」と言い捨てられたのだった。俺は、結婚する前から人生終了のお知らせを聞かされた気分になり、滅茶苦茶凹んで、その日を境に、俺は自室から出れなくなった。人に会いたくないのだ。父上や母上、義妹に悪友のあいつまでもがドア越しに俺に呼びかけたりしても、声をかけてきても、一切の返答をしなかったのだ。


 引きこもっても、もう今の状況がどうにもならないのは分かっていたが、俺にはこの時間が必要なのだと思っている。義妹がいれば、俺がいなくなったって跡継ぎがいるのだから。


 そうして、飲まず食わずに引きこもっていた俺は、とうとう自力で動けなくなったのだ。(かす)れた声しか出せない。このまま、どうなってもいいかと思って、とうに考えるのにも疲れてしまっていたし、頭の中に(もや)がかかっていて、考える気力もなくなったようだ。そうして目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ