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映画 天気の子

※あいかわの妄想とネタバレ含みます。

「人の神が騒いでおるようです」

沼の底の魚のように控えめな低い声がひっそりと耳打ちする。それを見遣ることもなく無表情に前を向いたまま、私は小さく頷く。前方よりまた別の、鳥が囀るようにきいきいと奏上する別の声。

「東京ばかり雨を降らせて、ひどいひどいと申しております」

「このままでは大きな都が一つ潰れると」

「巫女が役に立たぬと嘆いております」

「せっかく天の気を鎮めようとしたのに」

「巫女も所詮人の子よと」

「神上がりできずに」

「全く分をわきまえぬ」

「ただ人に引き戻されてしまった」

さざめく色とりどりの声たちを耳にしながら、私は手に持つ白く小さな(さかずき)を干し、軽く前へ差し出す。するするといづこともなく現れた羽衣を纏う天女が、新たに酒瓶を捧げ、私の差し出した小さな杯を満たす。

「主上」

「主上」

「主上」

「如何なされるか」

「如何おぼしめしか」

「雨はまだ降っておりまする」

「雨はまだ続いておりまする」

「人は営みを続けられませぬ」

「鳥は地上へ降りれませぬ」

「小さきものたちは帰る住処をなくしまする」

「花が咲きませぬ。葉が茂りませぬ」

「主上」

「主上」

「主上」

「主上!‥」

醸した神の酒は美味だ。風は心地よくそよぎ、清められた板張りの宮に、見目麗しき女たちがいて、

--ここは天の宮。天空よりも奥深く、生きものたちの住まう世界より、超えられぬ高みへと至った先の、次元の扉を隔てた異なる神たちの宮。その神々の頂点たる神である私が住まう宮。

鳥が囀るように口々に騒ぎ出す神たちは雀に似ている。人の神と同じく、雨が降り続く地上を憂い苛立っている。一方、私の側で背後から耳打ちする鯉の顔の神は魚の神。水に棲まうものたちの神だ。雨をさして災いと思うべくもない。

「主上!!」

高まる声を従えるように正面の戸を払い踏み込んできたのは、私と瓜二つの顔をした人の神。眉目秀麗の美しい青年の顔が、今は目が吊り上がり口は引き結び憤怒に満ちている。

「即刻巫女を戻してくださりませ! これ以上東京に雨が降れば、地形が変わってしまいまする。交通機能は麻痺し、地球の、日本という発達した国の都が死んでしまう。隣国から戦争さえ仕掛けられるかもしれませぬ。貴重な文化と科学の徒が失われ、ひいては地球文明の発達も滞るかもしれませぬ。

一大事でございまする。

雨をお止め下さいませ! 主上!! あるべき姿に、地上を戻してくださいませ!!」

つかみかからんばかりの勢いで近づいてきた人の神に、私は手の杯を放り、扇を取り出してぱちりと一度鳴らした。

途端、人の神の動きがぴたりと止まり、勢いよく踏み込んできた両の足が微塵も動かなくなる。ざわめく鳥の神たちの大きく開閉する嘴が静止する。

「‥うるさいのう。全く。そなたたちは。‥『伏せよ』」

頂上の神のみ言葉である。ばたばたばた、と神たちの体が突如として床にへばりついた。

「そなたたちの訴えは聞いた。して、同じ意見ばかりでつまらん。鯉の神よ、空の魚の神は何と言っておる」

「は。久々に地上へ戻れそうだと、喜んでおりまする」

背後で耳打ちしていた魚顔の神が答える。そうであろうと私は頷いた。

「やつらは積乱雲の上で遊ぶばかりでおったからのう。飽きたし、恋しいのだろう。雨があったら戻れるしなあ」

「は‥」

はいつくばったまま屈辱に耐えている人の神、鳥の神、それから背後の鯉の神を順番に見遣り、私は言った。

「あるべき姿に戻してやろうか、人の神よ? そのあるべき姿とは、さて、どれのことかな」

「どれのことかとは、‥」

「雨の降る前に。よく晴れた東京の夏らしく暑い空に。あるいは、埋め立てる前、数百年遡った、江戸と同じ海岸線に?」

「‥」

「いやいや、この地球という星はもっと古くからあるのう。ひどく冷え凍えた時もあった筈。氷河期と言うたかや? その前の、恐い竜の闊歩していた時まで戻ろうか。それとも、もっと前? 藍藻がちまちまと酸素を満たす前、オゾンの防壁もなく宇宙から紫外線が降り注ぐ原初の海へ戻そうか。それとも、46億年の向こう、星ができる前までも?」

「しゅ、主上‥!!」

「答えよ!! あるべき姿とはなんじゃ。あるべき姿とは、どれのことかや!?」

雷が轟く。神鳴りとはまさにその通り。

頂きに立つものの神威に身を打たれ、人の神、鳥の神、その他もろもろの神たちは口を噤む。

しばしの時を挟み、私は再びぱちりと扇を鳴らした。彼らの金縛りが解け、強張った体から力が抜けるのを見て取る。

「あるべき姿などない。巫女がどうした。ただ人がどうした。どのような者であれ、望み、悩み、抗い、勝ち取ったその結果を覆そうというなら、同じ土俵に立てば良い。巫女はひとりでなくてはならぬ道理もない。雨の降るその世界を拒むなら、その拒む者が巫女になれば良い。誰も止めてはおらぬ。人の神よ、それが正しいと信ずるなら、神の座を降りてただ人となり、かの少女と同じ鳥居をくぐり、天の気を操る巫女になってはどうじゃ。その命をかけて、露と消えゆく運命と知りながら、天の気を操り、鎮めて参れ。ならば天は動こう。ならば世界は変わるであろう。彼らはそうして世界を勝ち取った。当事者になる気もないのに高貴なる神が子供のように文句をたらすなど、見苦しい、笑止千万!! 『()ね』!」

「うわあああああ!!!」

ごう、という風が起こり、私の一言と共に、人の神、鳥の神はあっという間にその風に巻かれ連れ去られる。

ふん、と一つ鼻息を鳴らした私の後ろで、鯉の神がごくりと一つ、重く唾を飲み込んだ。

「なかなか‥厳しい一言かと」

「神といっても所詮部外者。思い知れば良い。46億年程歴史を学んでから出直して来いというもの。大体この世が始まってから何億年経っておるというのじゃ。くだらん。たかだか数百年、数千年くらいで大きな顔をして。修行の足りぬ若造よ」

次元の扉の向こう、雲の遥か下へ意識を遣ると、私の愛する地球という星の東京という都は、まだ雨が降っていた。

(世界を作るのはそこで生きる者たち。その結果が吉か凶か、その責任を引き受けるのもそこで生きる者たち)

「見よ。人の子はちゃんと生きていくではないか。鳥たちも、花たちも、小さき虫たちも、ちゃんとあの世界はあの世界なりに、新しい未来を作っていくではないか」

呟き、私は思い至って咳払いをした。随分熱くなってしまっていたようだ。これ程喋ってしまうとは。

あの少年の、少女を引き戻した彼の熱意に、少々あてられたのかもしれなかった。


‥という訳で、見ました。

良かったです。

良かったけど、もやもやして、こんなん書いていました。

100%シンクロできなかったもやもやが、これを書いたあと、いろいろあいかわの中で反響して、化学変化して、今とても良い感じに落ち着こうとしています。

つまり。


好きだあ―!!


そして音楽もサイコウ。

見に行った日から、お風呂場でサントラ発動中です。

とはいえ、「君の名は。」の方があいかわは好きかなー。


この文章が、まだ見ぬあなたの良き出会いのきっかけとなりますように。

あるいは、もう見たあなたの、新しい共感を引き出しますように。


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