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鎌倉おやつ処の死に神 3

「定性的な考えでは駄目だ。定量的な考えをしろ」

理系学部に所属していたあいかわに、指導教官はそう言った。


生か死か。

白か黒か。

有か無か。

そんなことばかりに目がいっていたあいかわは、

その間の無限のバリエーションを忘れていた。


「おやつ処みなと」は、主人公柚琉の妹、和花が経営する鎌倉のパティスリーだ。

お菓子作りが大好きでパティシエになった和花が、毎日大好きなお菓子を作って、客に提供する。

出されるお菓子はとってもおいしくてかわいくて、鎌倉のバスを乗り継いでいくような辺鄙なところにある小さな店なのに、週末には行列ができる程の賑わいだ。

柚琉はその和花の手伝いで店に出、忙しい妹のかわりにせめて家事を片付け食事を作る、駄目でヘタレの兄。

兄想いで可愛くて才能のある和花には、誕生日にはパリから花を贈り、倒れた時には駆けつけて和花のために店を手伝ってくれるイケメンシェフの元カレ江崎がいるけれど、柚琉は、俺のことは気にせずに一緒にパリに行けと和花に言うこともできない。


けれど、物語中で特別な力を与えられたのは、和花ではなく。

生まれたばかりで死にかけた和花に、命を延ばす力で母親から命を移し、生をつないだのは、実はその柚琉なのだ。


命を延ばすことができる医師がいると聞き、ひっそりと訪ねて来る客たち。

そんな彼らは、非科学的で不思議な話をどこかしらで聞きつけ、藁にもすがる思いで、バスを乗り継いでかつての湊医院を訪ねる。医院のかげはあとかたもなく、「おやつ処みなと」の店構えに面食らいながらも、「湊」の表札に家を訪ね、おずおずと話を切り出す。

「湊先生はいますか」

「もうこれ以上は生きられないと言われているんです‥」


生か死か。その観点で定性的に考えれば、柚琉は生を与えることができる。

だが人はいつか死ぬ。いっときの生は、永遠の死に敗北する。

だが、生と死の間には、無限の生者の時間があって、

その時間が、人には救いとなり、癒しとなり、喜びとなる。

笑い合う時間、愛し愛される時間、

生まれてくれてありがとうと伝え、

世の中には素晴らしいこと、楽しいことがたくさんあって、

あなたといて嬉しいと感じる、

大切なあたたかい時間だ。

例えば、赤と青の間には無限の紫があって、

わたしたちはその中に、物憂げに雨に打たれるあじさい、紫水晶のすんだ輝き、暁の空を見出す。

辛く苦しい時に会いたくなる人、

何もできなくても一緒にいる人、

ただ「待ってるから」と告げる人。

ぶっきらぼうな言葉を投げかけて、互いの距離をいつもあたためて、縮めようとする人。

そんな人たちと過ごす大切な時間は、

何がある訳ではなくても、決して意味のないものではない。


という訳で、やっぱりあいかわは泣いたのでした。

電車中に読むのをもうやめなきゃですよね! やめないけど。

お話の底流を支える、ちょっとメランコリックであたたかい人々のやりとりと、

ビー玉のように散りばめられ、きらきらと輝きを放つエピソードが、とっても素敵です。

パティシエの和花ちゃんが、「誕生日くらいは好きなケーキを作るの!」と店には出せない採算度外視したケーキを一日中作っているのも好き。

和花ちゃんに届いた、パリの元カレ江崎からの豪華な花束が憎くて仏壇の前に置こうとする柚琉、

さりげなく釘を刺す深町さんもいい。

破天荒で傍若無人の津守がいつのまにか作っていた恋人、中華街の女も気になる!

お話は、三巻で最終章、終わってしまったけれど、

この人たちの描くすてきな風景を、もっともっと楽しみたいわあー。

ああ、続編出ないかなー。

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