闘う君の唄を
貴方は誰と闘っているの?
モンスターペアレント? 日和見な園長? ドライな先輩教師? やんちゃでわがままな子供たち?
そうじゃない。そうじゃなかった。
幼い子供たちの教育現場が題材に取り上げられて、
あいかわもそのつもりで読み始めた。
「ふたつめの庭」や、「七人の敵がいる」とか、
子供の教育現場を扱った同様のテーマの良書は、世の中にたくさんある。
でもこの物語は、ほんの少し、
他の物語たちから、微妙に軌道が外れている。
主人公は新任の幼稚園教諭、喜多嶋凛。
初めての幼稚園で、初めて担任のクラスを受け持ち、教育に情熱を抱いて、子供たちに真摯に向き合う。
だが凛が闘うのは、教育、それだけじゃない。
闘う凛の、この物語を読んで、
『私が凛なら、こんな闘いを挑み続けられるだろうか』、普通ならそう思うところ、
あいかわは、別の命題を突き付けられたと思った。
『私の子供がこの幼稚園に通っていて、凛が受け持ちの先生だったら、
私は凛を受け入れられるだろうか?』
物語は主人公凛、新任の幼稚園教諭の目線で進む。
だから凛の熱意、真摯は、読み手にとって疑う余地はない。
だがもし自分が、凛の思いを知る由もない、凛のクラスの園児の母親だったとしたら。
普段の授業、やりとり、子供たちへの接し方、
そこで「この先生は良い先生だな」と気づくことはできても、
いざ凛の抱える事情を知った時、
そのまま、それまで通り凛を信頼し、
自分の大事な三歳の子供を預け続けることができるだろうか?
それほどまでに、人を信じることは、信じ続けることは、難しい。
だから、凛は闘っている。闘い続ける。
終盤、凛を不当に貶める事件の一端が明らかになる。だがそれでも、
全てが許される訳ではなく、やはり凛は、苦境に立たされたまま、教師生活を続けることになる。
だが凛は揺るがない。
もう既に、たくさんの園児たちの信頼を、愛情を、身をもって受け取っているから…
闘う君の唄が聞こえる。きっと行進曲だとあいかわは感じる。
凛の未来に光がありますように。