phase.1-3 The doll house(2/)
意識が光の線を這う。電脳空間には現れたそれは幾つものラインが収束し、毛糸玉のような巨大な球状の核を形成している。莫大な量の情報が飛び交う空間の中で、全てを喰らい尽くすように膨張しているそれがDELTAの中央データベースである。
藍那は今、一筋の光と一体となって、自らをも呑み込もうとする貪欲な塊にアクセスしている。電子情報の束は一本のか細い線を構築し、不規則なラインを辿り、微動しながら淡く発光している。これが幾つも絡み合い、複雑な防壁を紡いで積み重なってDELTAの中核を取り囲み、藍那の意識を迷宮へと誘う。
不正に産み出した一方通行のアクセスルートは自らの意識を導く。視界を闇が覆い、駆け巡る閃光が途絶えた時が終焉の合図。敷いたレールを踏み外した途端に私は電脳空間で個を保っていられなくなる。その前にDELTAの中核に生じた解れや綻びを一つ一つ正していく。何よりも繊細さとスピードを要求される。しかし、藍那の処理速度を上回る速さで、その球状の塊は侵入者を阻害する為のエラーコードを形成していく。
LEVEL 6の情報殻に触れると、藍那の電脳空間は真っ暗な闇に包まれ、視界は濁り、縁からじわじわと瞼を閉じた時に広がるあの晦冥が現実をも蝕むかのようにその身を襲う。終焉の間際、藍那は見つけるのだった。
「0」と「1」の間の世界。
そこに未知が詰まっている、そんな気がする……
手が届きそうで届かないもどかしさは彼女をまたその場所に唆す。
このほんの一瞬だけ広がる世界から、一種の快感に近い体験を享受する。それは繰り返す度、彼女の神経を麻痺させていく。