phase.1-3 The doll house(1/)
「Type202 II -Marion」ーーDELTA electronicsが製造した三番目のレプリカント。DELTAがこの産業に参入してからは、他社との区別化を図る為、常にレプリカントに独自の人間らしさを追求してきた。
もともとアンドロイドは人間の生活支援用に開発され、多機能であることが必須だった。アンドロイドといえば、器用で家事全般を卒なくこなす事ができるし、演算処理能力が高くマネジメント面でもその才能を発揮できる。また、一人の人間では重くて持ち上げることのできないものを容易に持ち上げることができるので、障がい者や老人の介護用や、blue-collar全般における労働力としても十分に活躍してくれる。
しかし、アンドロイド産業では後発だったDELTAは路線を大きく変更して、容姿や性格も勿論のこと、スペックにも人間らしさを追求し、自社製品を「レプリカント」と呼称した。初期は世間、特に企業からの評価は芳しくなかったものの、後に富裕層の人間から厚い支持を受け、今に至る。理由は察しの通り、その表情豊かな顔立ちや、肌に触れたときの触感、まるで人間そのもののようにリアルに揺れ動く感情は、主に富裕層の人間の性の欲求を満たすには十分だったからだ。
その世界で最も人間に近いAIと肉体のセットが殺人を犯したというのだ。事態が報道されれば、DELTAは多大な損害と世間からの非難を被ることとなる。
藍那は自分でハンドルを握り、車を走らせていた。速度制限を五〜十キロほどオーバーしているが、何も珍しいことではない。同時に電脳ではi-linkを用いて、DELTA社の中枢へクラッキングを行っていた。
彼女の予想ではDELTAは恐らく、マリオンの製造に関してまだ隠し持っているデータがある筈だった。が、DELTAのセキュリティ防壁は国内の大手企業とは比べ物にならないほど強固で、藍那単独で本命のデータを突き止めるにはリスクが大きすぎた。このクラッキングはあくまで企業に揺さぶりをかける為のもので、彼女は今、無理にでもDELTAとの交渉ラインを確保する必要があった。