エピローグ
村人たちの会話を木々の陰で聞いていた魔女は、静かにその場を離れた。
ふと、自らの過去を思い出したのは、館へと戻る、その道中のことだった。
その昔、不治の病で余命宣告を受けた少女が、魔女の屋敷を訪ね、ある約束のもと、クスリを作ってもらったことがあった。それは驚くほどの効果を発揮し、少女の命の灯は消えずに済んだのだが、一方で消えなくもなってしまった。
つまり、不死という呪いの身体となったのだ。
呪縛を解消する手段はただ一つ。別の人物に、その役割を引き継ぐことだった。
歴代の魔女、魔術師は、訪れた人物の願いを叶える代わりに、呪いをかけ、その役目を引き継がせていった。そうしなければ、自分の呪いが解けなかったからだ。
少女の外見は普通の人と同じく、年を追うごとに老齢化していったが、身体はいたって健康で、寝込むような病気をするようなことも一切なかった。
……こうして魔女となった少女は、技術を高めるべく、残された書物を読み漁り、日々を費やした。
少年がやってきたのは、それから七十年もの時が経った頃だ。険しい山道を登ってきたからだろう。身体は酷く疲弊していたが、その表情は当時の自分を思わせるほど、真剣なものであった。
少年の願いは、随分と予想外なものであったが、魔女はそれを聞き入れ、クスリを作った。
このとき、やり方によっては、不死の呪いを引き継がせることも可能だっただろう。しかし。
樹木に、魔女の役目は似合わない。
そう、判断したのだった。
いつか自分と同じ願いを持つ者が来るまで、今しばらく、その時を待とう、と。
それが何十年後、何百年後になるかは、神のみぞ知るといったところだろうとも――。
終




