二章
こうして、次の日から、少年は材料集めの手伝いなどに昼夜を駆け回った。
あるときは崖下に咲く一輪の花を採取し、またあるときは、猛毒を持つ虫の巣から卵を持ち帰った。
そうして五日ほどたった頃、そのクスリはついに完成した。
「――これで上手くいけば、お前さんの願いも叶うだろう。自分の一番好きな場所で飲むといい。ただし誰も試したことのないクスリだ。もし失敗しても、責任は持てないよ」
「あなたが力を尽くしてくれたことは充分に分かっています。どんな結果になろうと、恨みはいたしません。どうも、お世話になりました」
少年はクスリを大事に懐へ仕舞い込むと、慇懃に頭を下げて魔女の家を出た。
ここ暫く、眠ることすら忘れるほどの生活をしていたため、身体は限界なほど疲れているはずなのに、少年の足取りは不思議と軽かった。
森にたどり着いた時、衣服はすっかりボロボロになっていたが、それすら、すがすがしい気分だった。
明け方になって、陽射しがうっすらと昇ってきたころ、少年はいつも見上げていた枝葉の元である、一番大きな樹木に背を預けると、懐からクスリの入ったビンを取り出した。コルクの蓋を慎重に外し、胸の前で感謝と祈りをこめると、その液体を静かに飲み干す。
すると、まもなくして、体内が仄かな熱を持ったように感じた後、突然の目眩が始まり、身体が大きく揺れた。その現象は数分間続いた後、やがて地震がしずまるかのごとく落ち着いていった。
少年はすぐさま自分の身体を確認したが、これといった変化は起きていないようであった。
もしや、失敗してしまったのだろうか? そんな不安が頭をよぎりかけたとき、ふいに右腕に違和感を覚えた。
見ると、一本の枝のようなものが、皮膚の上から生え始めているではないか。
驚いたのもつかの間、それは全身から、まるで種が芽を出したかのように次々と姿を現し、葉を広げながら急速に成長していった。
「――や、やった! 成功だっ!」
植物は、喜び叫ぶ少年を幹として育ち、やがて蔓がその全身をもミイラのように包み始めた。
そうして少年の顔が蔓で巻かれたとき、流れ落ちた感動の涙は、自身から伸びた植物を伝い降りて下半身から生えた根へと吸い込まれていった――。




