表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

戦闘描写に関する実験1

戦闘描写に関する実験1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

登場人物


島村:小柄(165cm56kg)、長足、俊敏、童顔、男。強い蹴りが特徴。


加納:黒スーツ、長身(175cm77kg)、良い体格、男、ヤクザ、25才くらい。


三浦:黒スーツ、長身(173cm76kg)、良い体格、男、ヤクザ、35才くらい。


花澤:白スーツ、巨体(203cm118kg)、男、ヤクザ、21才くらい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


蠢くそれはやがて人の形となり、何かを唱え始める。

その声は今まで聞いたことのある言語とは一線を画した、初めて聞くような言葉と音程を持ち、心を陰らせるような、そんなものだった。


そして、思う。今すぐにでもこの詠唱を終わらせなければ、何か酷く危険なことが起こるのではないのか、と。


1番に動き出したのは島村だ。

小柄な身体だが、足は長い。力強く地面を蹴り、真っ直ぐにその『人』へと駆け出す。相手との距離は1mほどとなった。そして、その勢いを殺す事なく、突の力を旋の力へと変えていく。動かない『人』に向けて回し蹴りを放つ。


『人』は島村のことを気にするそぶりなど全く見せずに、詠唱を続ける。それはまるで攻撃される事など分かりきっており、また、攻撃が通じるとは思っていない。そんな雰囲気だ。


動かない『人』へと放たれた島村の回し蹴りは『人』の体へ正確に命中する。普通の人間であれば、しっかりとガードをしても動きをしばらく止めるには十分な威力だ。

だが、しかしその蹴りは届かない。

いや、届かなかったのではない。そこにはあたかも何もなかったかのように、『人』の体をすり抜けていったのだ。


『人』はその間も詠唱を続ける。表情は変わらない。先ほど感じた雰囲気はこの事を予期していたのだろうか。


島村はさらに動く。先ほどの蹴りのエネルギーを保ったまま、2発目の回し蹴りへと移行する。

体を捻る。流れるような動き。そこには一寸も無駄の感じられない、すべてのエネルギーを蹴りの一点に集中した動きだ。下段から中段へと徐々に足が螺旋を描いて上がっていく。遂には先ほどの当たらなかった一撃目と同じ部分に足は吸い込まれていった。


島村は今度こそ当たったと思った。しかし、再びその渾身の蹴りは当たらなかった。全く同じ様に、そこにいるのだが、まるですり抜けるように手ごたえがない。しかし、一撃目では気づかなかった光景が二撃目では目に入った。

足が『人』に当たる瞬間、島村の足と『人』の体の間が一瞬小さく光ったのだ。

これは、何か魔術的な、人智を超えた力が働いている。打撃そのものはあたかも当たっていない様に見えるだけで、ダメージはどこかには入っている。そう思えた。


島村は3発目へと移行せず、一度『人』と距離を取るために、失われずにいる蹴りのエネルギーを回避へと移す。

回転する身体。消失する事のなかったエネルギーを十分に受け流し、そして元いた場所へと戻った。


次に動いたのは、加納だ。

ガタイの良い、大きくもスラッとした巨体。手を黒スーツの内ポケットへと伸ばす。

懐から取り出したのは、黒くて重々しい拳銃だ。


それをなぞる様な、全く同じ動きをしたのは、加納の横にいる三浦だ。

内ポケットから取り出した拳銃は加納と同じものだ。

加納ほどは大きくはないが、こちらもなかなかのガタイをしている。


2人は拳銃を右手に持ち、『人』へと構える。加納は目を、三浦は心臓を狙い、引き金に手をかけた。

大きな音と共に放たれる銃弾。2人は銃弾が尽きるまで『人』へと撃ち続ける。正確な射撃は確実に『人』をとらえる。しかし、銃弾は『人』を通り越し、向こう側の壁へとめり込む。その壁の跡が増えるにつれ、弾丸が当たったであろう『人』の目と心臓の付近からは小さな光が、はっきりと光っていることが分かる。


その光は攻撃がすり抜ければすり抜けるほど強さを増している。全員が気づいた。ダメージはしっかりと何らかの形で通っている、と。


2人の弾丸が尽きる。と同時に動く影があった。


花澤だ。


その巨体からは感じられないほどの軽い動き。一歩一歩、力強くも軽やかに地面を蹴り上げ『人』へと走る。大きな体に見合わないほど静かなその走り。一瞬で花澤と『人』との距離はゼロ距離へと近づく。拳を握る。強く右手を握る。それに加えて強く左手を握る。体は真っ直ぐ、その『人』に向かいながら右の拳を引く。

それと同時に強く地面を蹴る。走るエネルギーを拳へと乗せる。そして放つ。真っ直ぐに放つ。全てのエネルギーが打撃にのみ使われる強い突きだ。それは相手を捉える。どんな人間でも食らってはただでは済まないようなその打撃は相手を突き抜ける。

その刹那、光があった。一層と強く光った。

そしてその力を殺すために前転を数度繰り返す。こうなることは予想出来ていた。洗練された動き。巨体は何事もなかったかのように再び立つ。そして構え直す。


花澤の打撃の瞬間、動きがあった。

弾丸が尽きた加納と三浦は『人』へと駆け出す。強い走りは花澤に続いて『人』へと向かう。加納は蹴りを、三浦は拳で『人』へと攻撃を行う。

花澤が真っ直ぐ『人』の先に行くことは予想できた。だからこそ、2人は花澤の居たところを避けることなどなく、攻撃を行う。花澤、島村とは異なる型の拳と蹴りが『人』へと向かう。下から上へと、当たる範囲を大きくした三浦の鋭いアッパーが『人』を通り抜ける。加納は真っ直ぐに突の力で『人』を貫く。

光は一層強く光る。


通常であれば当たる攻撃。攻撃が通り抜けてしまう経験など今までにない。エネルギーは全く減らず、通り抜けた先で力を分散させる。頭でわかっていても、体は上手くは動かない。ある程度減ったエネルギーはそのまま前方へと向かい続け、2人は体勢を崩す。受け身を取る。だが、全力の攻撃のエネルギーは膨大だった。大きな音を立てて壁へと激突する。その衝撃で2人は一瞬意識を失った。

しかし、身体の痛みは意識を失うことを許さない。途轍もない痛みが身体を走る。しかし、今は痛みに悶えている暇もない。『人』の詠唱を止めるまでは攻撃をし続けないといけない。2人は立ち上がった。


……………


構え直した花澤は再び『人』へと向かう。横を通り抜ける加納と三浦。

2人は激しく音を立て背後の壁にぶつかる。もしかしたら重傷かもしれない、と思いながらも、集中すべきは今は『人』だ。

『人』へと再び拳を叩き込むべく、走る。再び握る。右手を強く握る。流れるような動き。腕を引く。真直ぐ叩き込む。光る。そして通り抜ける。


動きがあった。『人』は微かに体を震わせた。それは一瞬であったが、確かにその体は動いた。

しかし、詠唱は止まらない。その声量は大きくなる。早くなる。


花澤は続けて左の拳を叩き込む。強く光る。そして通り抜ける。


『人』の詠唱から小さく「っ・・・」と声が漏れる。確実に攻撃は通っている。しかし決定打にはなっていない。再び回避体制を取り、エネルギーを分散させ体勢を直す。


その時、横を通り過ぎたのは島村だ。低い体勢を保ったまま、今度は『人』の足に向けて回し蹴りを放つ。1発目、2発目、3発目、と。エネルギーは『人』を通り抜けても減ることはない。その回転を止めること無く蹴りを放った。鮮やかな回転。留まることのない勢い。


光は一層強くなり、強くなるたびに『人』は顔をしかめる。しかし止まらない。まるで、こちらの攻撃が勢いを増すほど、その詠唱は早くなっているようだった。掌からは攻撃の際に出る光とは違った、黄色がかった光が溢れ始める。

それは、詠唱の終わりを告げているかのようにどんどんとその光量を増していく。しかし、突然その光は失われ、『人』は大きく動いた。


花澤だ。


島村はその動きを知覚することは出来なかった。『人』との戦闘に集中していたからではない。蹴りに全力を込めていたからではない。あまりに速過ぎる花澤の動き、音のしない踏み込みに、気配を全く感じることが出来なかったのだ。島村には何が起こったのか分からない。しかし、確かに花澤の攻撃は確かに『人』へと通じ、詠唱が止まったのだ。


……………


花澤は動く。しかし足音はしない。とても軽やかな、それでいて強靭な踏み込み。足から生み出されるエネルギーは全てが走るためのエネルギーへと変わっていった。それに続き、上体も動き始める。握った拳は今まで以上に速い突きを見せる。

『人』の詠唱が止まる。それと同時に上体を少しひねる。人とは思えない速さ。そして顔がゆがむ。『人』は避けようとしたが、花澤の鋭い突きに時間が足りなかったようだ。花澤の攻撃は『人』の半身に当たる。『人』の顔がゆがむ。当たった瞬間に光は発せられたが、今までの眩しさはなかった。

花澤の突きはひねりが加えられ、その攻撃は威力を増す。拳が『人』に当たった部分、そこは穿たれた。大きく穴が空く。大きく空いた穴からは、体液が出るに思われた。血液が出るに思われた。だが、そこからは何も出ることはなかった。『人』の背後には飛び散った肉片。それは瞬く間に消えていった。

消えると同時に、『人』は顔を歪ませる。痛みに歪ませているように見えるが、それだけではないようにも見えた。こんなことが起こるとは思いもしなかったのだろうか。

『人』は口を開く。「意外だったよ。」


「お前は何者だ。」と、花澤が強い口調で尋ねる。しかし、『人』は答えない。

突然その形が溶け崩れる。ゆっくりと、その体全体が溶け崩れ始める。『人』は無言だ。

目が溶ける。腕が落ちる。体が崩れる。しかし、人間であればあるはずの血液などあるはずの体液が流れ落ちるといったことはない。

ただ人間として生きていれば見ることなどない衝撃的な光景。4人は何が起こっているのか分からない。ただ1つわかるのは、この場が一旦収まったということだけだ。


『人』だったものはバラバラに崩れていく。その体には骨すら存在していない。ただの崩れた肉塊のようなものがどんどんと崩れていく。溶けていく。

『人』だったものの溶けた部分は煙が上がり、段々と消えていく。肉塊は段々と小さくなってく。


『人』が最後の言葉を発してから1分ほど。崩れた体、溶けた体は遂には煙となりその場から消えた。

蠢くそれが人の形をなしてから5分程の出来事であった。

そこに残ったのは大量の銃痕を作られた壁と、そこに派手に体当たりをした加納と三浦によって作られた大きな凹み。その2人の全身を今も襲う痛み。戦いを終えた4人だけだった。


おわり。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ