ファーストキスはいつだったのか?
「もうっ!ついてこないでっ!」
私は怒っている。あれで怒らない方がおかしい。
だから私の怒りは正当なものだ。
「…なんで?」
それなのにハテ?と小首を傾げる真琴は、絶対おかしい。
(こいつ、確信犯だ…。私は騙されたりなんかしないんだからっ!)
「ねぇ、束沙…怒ってるの?」
頭から蒸気を出しながら、スタスタ歩く私を驚いたように真琴が見つめている。
「…―――っ」
(どんだけデリカシーないわけっ!?)
「ひとの大事なファーストキス奪っておいて、そういうこと聞く?」
(しかも、人前で。しかも舌まで入れてきやがって!)
私は苛立ちをぶつける。私は悪くない。悪いのは真琴だ。
「え?」
真琴が私の言葉に、なぜかまた驚く。
「ファーストキス?誰の?」
(とぼけやがってコイツ…!)
「だからさっき…ーーー」
私はつい先程の、あのキスのことを言おうとした。
――でも…何か引っ掛かる。真琴はそんな馬鹿じゃない。
忘れてるわけがないのだ。
(まさか…ーーー)
…――――考えたくない。だけど、真琴ならあり得る。だって真琴だから。
「真琴…まさか…ーーー」
私は、最悪の事態に備えながらも恐る恐る尋ねる。
(寝ている隙に実は…とかそんなわけないよね?)
そんな怯えた瞳の私と目が合うと、真琴が左手で顔を隠す。
(―――…真琴?)
真琴の様子がおかしい。顔を隠して、何か堪えるように身体を震わせて…ーーー。
「―――今さら?」
真琴が突然、ブハッと凄い勢いで吹き出した。
(一瞬でも心配した、私の良心返せ!)
余程笑いを堪えていたのか、しばらくおさまりそうにない。
(――――…爆笑してる。あの、真琴が。)
…というか、笑いの要素、どこ?全く見当たりませんけど?
終いには、目に涙を浮かべてた。
そしてその涙を拭いながら、
「はぁ…、もう…かわいいなー!束沙ちゃんは」
――――真琴は、心底幸せそうに笑った。
(うわ…眩しい…!いや、ドキッとしてどうする私!)
―――結局、私のファーストキスはいつだったのか?
真相は、真琴にしか分からない。