友達の査定する彼
「神崎くん」
私と委員会に出るところで、真琴は珍しく女子に呼び止められた。
隣を歩いていた私も、なぜか一緒に立ち止まる。
「…はい?」
そう応える真琴の目は、光がない。―――死んでいる。
あれ?『束沙ちゃんとの時間、邪魔すんなよ』って心の声が聴こえてきたのは、私だけ?
(え、幻聴まで聴こえるようになったのか?ヤバくない?)
「私、砂川さんと話してもいいかな?」
可愛らしいウェーブのかかった肩までの明るい茶色の髪。
メイクもマスカラで目元はバッチリ可愛らしく仕上げている今時の女子高生。
そんな彼女が、真琴に話し掛けた用件は…―――。
(え…、私と話すための許可を得るため?)
「…どうぞ」
それを聞いた真琴から、邪気が放たれている。
気のせいじゃないよね、…真琴を取り巻くこのどす黒いオーラ。
(怖い、怖いから真琴…ーーー)
私がそんな今時女子高生より真琴が心配で、狼狽えていると、
「柳原歩だよ!覚えてる?束沙ちゃん」
明るい笑顔で、彼女が言った。
そう言われて、私が名前を頭の中で反芻する。
そして辿り着いたのは…ーーー。
「――――…え、歩!!」
小学校三年の時、同じクラスだった、柳原歩だった。
「実は束沙ちゃんが転校した後、私も隣町に引っ越してみんなと同じ中学じゃなかったんだよねー。束沙ちゃんこっちにはいつ戻ってきたの?」
(すっかり可愛くなってー。いや、あの頃から可愛かったか…)
久しぶりの再会に、親戚のおばちゃんみたいな心境でのほほんと見つめていると、
興奮している歩が、さらに早口で喋る。
「し・か・も、神崎くんがイメチェンし過ぎててビックリしたよー!“あの”、神崎真琴くんだよね?すっかりモテモテ男子だね!!」
「え?」
(――――なんか、聞き間違いかな?モテモテ?誰が?)
「神崎くん、モテモテなんだよ?え、束沙ちゃんまさか気づいてなかった?」
「そうなんだ…」
私は、引きつった笑顔で、そう答えるしか出来なかった。
歩は中学違うから知らないんだ、他の女子達と同じで。
真琴の…本性を…ーーーー。
「二人付き合ってるんだよね?壇上から“俺のモノ宣言”なんて、キャーッ!ヤバ過ぎ―!」
テンション高めの歩に、
(あぁ、そういえば小学校の頃から恋話大好きだったよねー)
と思い出しながら私は他人事のように見ていた。
(あ、そうじゃないよね…、歩は私と真琴が付き合ってるとか勘違いしてるんだっけ…)
「あ、歩…違」「付き合ってないよ」
私が否定しようとするのと、真琴が苛立ちを隠して笑顔で、そう言うのはほぼ同時だった。
――――ズキッと胸が痛んだ。
(あれ、持病かな?)
私は、焦って心臓の辺りを手で押さえる。
「え、そうなの?」
びっくりしながらもあっさりとそう言った歩は、
私の背後に視線を向け、ぱぁっと笑顔が華やかに変わる。
「あ、私彼氏に呼ばれてるから行くねー!」
笑顔で、私に手を振ると、嵐のように歩は去っていった。
「…友達出来て良かったね、束沙ちゃん」
歩が居なくなると、機嫌が戻ったのか真琴が笑顔で言う。
どうやら彼女は“友達”だと認定されたらしい。
(そんなことより…――――)
「束沙ちゃん、どうしたの?」
私が心臓の辺りをぎゅっと握っていると、真琴が微笑んで尋ねる。
「何が?」
私は、委員会の教室へ向かおうと、歩き出す。
「その表情、ショック受けてるよね?」
すぐに追い付きながら、愉しそうに真琴が言う。
すぐにまた胸が痛んだ。…でもさっきのとは少し違う痛み。
(――ショック?何が?)
「そんなわけ…ーーーっ」
言いかけた私は、驚きのあまり…目を見開くしか出来なかった。
真琴が腕を強く引いたと思った瞬間、私は唇を塞がれたのだ。
しかも、真琴の唇で――――。
「は…っん」
舌を絡ませられて、私は思いきり真琴を突き飛ばした。
豪腕の私が思いきり突き飛ばしたのに、華奢な真琴が思ったより吹っ飛ばなかったのが意外だった。
(いや、そんな事に感心してる場合じゃなかった!)
唇を奪われたのがショック過ぎて、一瞬現実逃避しかけた。
「その表情、良いね。たまんないな…」
ペロッと舌なめずりしながら、蕩けるような表情で、真琴が微笑む。
「●△⊆∪∈⊆!??」
(こいつ、こいつ、こいつ――――ーッ!)