クラス委員の彼
ここは一年A組の教室。
そして今は、初めてのホームルームの時間。
担任の狭間先生(28才独身)が自己紹介の後、クラス委員を決めたいと言った。
すぐに名前が挙がったのは、やはり昨日の入学式で注目を浴びた真琴だった。
堂々と人前で、しかもマイクで“あんな私事”を発言したのに、なぜかそれでもクラス委員を真琴にするとは…。
「クラス委員は神崎真琴、あとは…ーーー」
サクッと決まったことに気をよくしたのか、狭間先生がその勢いで女子も決めようとする。
「ちょ、ミキやればぁ?」
「えーどうしよっかなー」
「彩子ちゃんやりなよー、推薦しようか?」
女子達は、皆クラス委員をやりたいらしい。
キャッキャッと小声で騒いでいる。
そんななんだか浮かれた雰囲気の中、スッと挙手する一人の生徒がいた。
――――真琴だ。
「どうした神崎」
「先生、砂川束沙さんが良いです」
真琴は立ち上がり、真顔でそう言った。
(え、私!?)
「そ、そうか…。神崎がそう言ってるがどうだ、砂川。」
「…はい」
(拒否権あるんですか?…ないでしょ)
私が力なく頷くと、パラパラと心のこもっていない義理の拍手が起こる。
「早速放課後、委員会の顔合わせだって、面倒だよね」
休み時間、斜め後ろの席である私の所にわざわざ自分の席を立って、目の前までやってくる。
(―――それ、面倒って表情か?)
満面の笑みで言われても、全く説得力ないから。
「でも束沙ちゃんが一緒だから幸せ」
「…あぁ、ソウデスか」
(私は不幸せですよ…)
「元気ないね、束沙ちゃん」
タメ息をついてばかりの私に、今さら気付いたのか、
真琴が心配そうに顔を覗き込む。
(おい、誰のせいだと思ってんだ?)
睨み付けようと真琴の顔を見たら、ついこの小顔かつ美しい顔立ちに一瞬見惚れてしまった自分が憎い。
(本当、どこの王族の王子様だよ…ーーークソッ)
自分の平凡な顔が嫌になる。
「友達…そんなに欲しいの?」
何を見透かしたのか、クスッと笑って真琴が言う。
「当たり前でしょ…」
「僕がいるのに?」
「真琴…」
(―――果たして君は、友達なのか?)
「―――わかったよ、そんなに束沙ちゃんが望むなら探すよ、友達」
(友達って探すものなのか?)
一瞬そんな疑問が浮かんだが、この際それは置いておこう。
「良いの?友達作っても?」
(中学3年の時みたいに、私が声かけた友達に片っ端から嫌がらせしない?傷付けない?)
半信半疑の私に、真琴はズイッと顔を寄せてくる。
「はい、」
「何?」
(目を閉じて『はい』って何のアピールだか知らんが、かわいいよ…充分。てか睫毛めっちゃ長いな…人形かっ!?)
「キスしてよ」
「なっ…」
反射的に顔をそらせながら、私は口元を手でガードする。
(何言ってるのコイツは…ーーーっ!)
「友達欲しいなら、僕にキスしてよ束沙ちゃん」
ゆっくりと目を開けてニコッと微笑む真琴に、私は謎のフェロモンにやられ、一瞬クラッとした。
(だからなんでそうなるっ!?)
クラスの皆にチラチラ見られているのは、あえて見なかったことにしよう。じゃないと、この空間にはとても居られない。
そして、真琴のおかげでまともな友達の作り方を忘れつつある私は、かなり重症だと思う。