合コンばっくれたら制裁が待ってた(奏目線)
「良い男居なかったねー」
私が言うと、
「だね。てか砂川さん一人にしちゃったけど、大丈夫かな?」
思ってもいないことを言いながら、含み笑いをする美樹。
「良いんじゃない、彼女男好きみたいだしねー」
綾もそう言って笑う。
――――そう。私たちは砂川さんを嵌めたんだ。
「だいたい可愛くもないくせになんで神崎くん独り占めしてるんだか」
「同じ中学の特権とか思ってんじゃない?マジ性格悪っ」
―――毎日出てくる、砂川束沙への不満。
あんな女に負けている気がして、私たちは悔しかった。
だから今日、こんな可愛い悪戯をしたわけで。
「鈴木奏さん、青田美樹さん、佐藤綾さん」
三人でカラオケを出るとすぐ、後ろから声をかけられた。
私たちは同時に振り返り、同時に息をのむ。
「「神崎…くん」」
そこには、クラスメイトの神崎真琴くんが無表情で立っていた。
「ねぇ、束沙ちゃんは?」
神崎くんの目は人とは思えないほど冷たく鋭くて…背筋が凍りついたように動けなくなった。
美樹も綾も同じだったらしく、私たちは三人揃って硬直していた。
「束沙ちゃん、置いてきたの?」
少し距離を詰めながら、神崎くんが言う。
(やばい、神崎くん…めちゃめちゃ怒ってる…)
「ご、ごめんなさ…」
金縛りにでも遭ったかのように、私は声が上手く出なかった。
「僕、言ったよね?束沙ちゃんは僕のモノだから勝手に話し掛けるなって。僕の居ないところでは許されるとでも思ったわけ?束沙ちゃんは、僕だけのものなのに」
そこまで一回も息継ぎせずに言って、神崎くんはなにか気付いたかのように少し目を見開いた。
「まさか、束沙ちゃんに嫌がらせのつもりでわざと一人置いてきたとかじゃないよね?」
「―――――――…え、まさか…。そんなわけないよー」
私は笑いながらそう言ってみたけど、絶対顔はひきつっていたと思う。
「束沙ちゃんに聞いてからだな…」
神崎くんがボソッと何か呟いたとき、カラオケから金南高の…あの残念な男たちがぞろぞろと出てきた。
「いやーせっかくいいところだったのになー」
「塚田は本当脚フェチだな」
「束沙ちゃんの脚はありだろー」
「高橋のやつ、自分ばっかいい格好しやがって」
馬鹿みたいな会話をしながら、馬鹿みたいな顔をした四人が私たちに気づいて立ち止まる。
「あ、さっきの…」
塚田くんが私たちに声をかけようとした瞬間、
「こいつら…?」
そう言った神崎くんの表情が恐ろしく怖かったのを覚えている。
私たちは黙って頷くと、神崎くんは金南高の男子の方を向いて言った。
「束沙ちゃんに触りやがったやつ、どいつ?」
「は?なんだこいつ、女みてーな顔して…」
塚田くんがそう言いながら神崎くんに近づくと、バチバチッと音がした。
神崎くんはあっさり失神して倒れた。
(あれってまさかーーーー、スタンガン…?)
私はますます恐怖で動けなくなった。っていうか、なぜか涙も出てきた。
(なにこの人、マジでヤバい…ーーーーー)
「おい、大丈夫か塚田ー!」「しっかりしろー」「とりあえず逃げろー」
残りの馬鹿三人衆が慌てた様子で塚田くんを抱えて帰っていった。
「あいつ、ちゃんと死んだかな…」
塚田くんと仲間がダッシュで逃げていくところを無表情で見つめながら、神崎くんがそう言った瞬間、
私も、その場から必死で逃げた。
「あ、奏待って」
「ちょっと置いてかないでよ」
――――…綾と美樹の声を、背中で聞きながら。