まさかの再会
「あの、話って…」
学校から出てすぐ近くのカフェに入ると、高橋くんと向かい合って座った。
「あー…、うん。俺のこと覚えてないと思うんだけどさ…」
高橋くんが自信なさげにそう前置きする。
「え、いやいや!覚えてますよ?」
(バカにしてます?だってつい二週間ほど前の話だよ?)
私、そんな記憶力悪くないし。というか、高橋くんのこと、忘れるわけないじゃないですか!
「え、覚えてる?…――俺、あんまり砂川さんと話してなかったけど…」
高橋くんが信じられないと言う表情で、嬉しそうに照れた。
(ええと…ーーー?)
こんなとき私は、なんと返答すべきなんだろう。
「高橋くん?―――あの、それで話というのは…」
私がまた用件を尋ねると、高橋くんが少し眉をひそめた。
「あ、やっぱり覚えないか…」
「え?」
あまりに小さい声で、私は聞き取れずに聞き返す。
「俺だよ、幼稚園一緒だった、“ユキ”!」
高橋くんが、さっきとは比べ物にならないぐらいの声で言う。
「え…」
(幼稚園…一緒?…―――ユキ?)
私がそのワードで脳内検索して出てくる人物像は…ーーー。
(確か…私より小柄で、大人しい女の子…みたいなーーー)
ぼんやりと浮かんできた記憶の中の“ユキちゃん”の姿。
「だから…高橋由樹だって。まぁ覚えてないか…」
高橋くんの声も聞こえていたが、検索中なので、私は無言のまま右手で「待って」アピールする。
(――――女の子…みたいな男の子だった)
「え?」
――――そして検索結果、目の前にいる高橋くんとリンクした。
「え!え?え?ちょっと…」
(高橋くんって、ユキちゃんかーっ)
「あ、もしかして思い出せた!?」
私の反応に、高橋くんが嬉しそうに笑う。
「…うん。でもまさか、あの“ユキちゃん”がこんなに男らしくなるとは思わなかったよー」
(一緒にママゴトとかキュアティごっこしてたあのユキちゃんが…。)
「砂川さんこそ、あんなに男らしかったのにすっかり可愛…」
高橋くんが言いかけた言葉を切った。なぜか一人で照れている。
「変わったよな」
コホンとわざとらしく咳払いしてから、言葉をつなぐ。
「え、そう?」
(まぁ、あれから10年だからねーーーー)
「うん。…―――なんか、女っぽい」
「女っぽいって失礼な、立派に女じゃボケぇ!」
「あーそういうところは変わってないな」
クスクス笑って、高橋くんが私を見つめる。
(あーなんだろ、昔の知り合いだと知ったらすごく親近感…ーーー懐かしい、この感じ)
以前はなんとも思ってなかった“友達のありがたさ”が身に染みる。ガチで。
「俺さ、名前聞いてもしかしてって…あれから何度か会いに行ったんだけどさ。会えなかったから…―――今日会えなかったら諦めようかと思ってた」
「へ?」
(何度か…来てくれたの?私に会いに?)
知らなかった、どうして会わなかったんだろう…ーーーー。
タイミング合わなかったのかな…ーーー。
「砂川さん、今度一緒に遊びに行かない?」
「え、うん!行こう!!行きたい!!」
ユキちゃんの誘いに、私はがっついた。
だって、友達と休日遊ぶのとか…―――久しぶり過ぎて!
「いつも、どこ行ったりしてるの?」
「いつも…?」
私はそう聞かれた瞬間、無意識に真琴の顔が浮かぶ。
(出てくんなバカ!―――…いつも一緒だったからって!!)
「まぁ、取り合えずこうやって放課後会うところから、どう?」
ユキちゃんがそう言って、私に優しく微笑んだ。
男の人になったんだな…と思わせるような大人の雰囲気で。
「…うん」
私は頷きながら、少し胸が苦しくなったのを感じた。
(――――持病かもしれない。)