このタイミングはずるい
「束沙ちゃん、帰ろ?」
その日の放課後、
変わらずに声をかけてきた真琴に、私は目を合わさずに席を立つ。
「一人で帰れば?」
そう一言吐き捨てるようにして、鞄を手に持った。
「なに、喧嘩?」「なんかヤバくね?」「あれはさすがに砂川さん酷くない?」「きっつ…」「神崎くん可哀想…」
野次馬がヒソヒソと話をしている。
(――――誰も私の気持ちなんて知らないくせに。)
こんな時私を庇ってくれる友達が、一人もいないなんて…。
(これも全部、真琴のせいだ…ーーー!)
私は教室を飛び出して、校門まで一気に走った。
真琴は…ーーー追いかけてこなかった。
(あーやっと解放されたのか。最初からあぁやってビシッと言ってれば良かったんだ!)
元クラスメイトの引きこもりが私にだけ懐いたからって、私が別にそこまで気にかける義理なんてなかった。
(そうだよ、明日からきっと…ーーーー)
きっと、“普通”の毎日が始まるんだ。
トボトボと一人歩いていると、
「砂川さん?」
目の前から歩いてきた人が、私の名前を呼んだ。
「あ…」
顔を上げた私は、驚いて目を見開いた。
「高橋くん…」
「良かった、もう会えないかと…――――」
ホッとしたように笑う高橋くんに、私はドキッとしてしまう。
「?」
(高橋くん…まさか私に会いに―――?)
「ちょっと時間、良いかな?」
高橋くんがなぜか照れくさそうにそう言った。
「…うん」
心臓をドキドキさせながら、私もつられて照れる。
(どうして高橋くんは…毎回絶妙なタイミングで現れるんだろう…ーーーー)