僕の束沙ちゃん
なんで僕は生まれてきたんだろう。
父さんにも、母さんにも愛されていない僕は。
どこにも必要とされてない僕は。
この世に存在している意味があるのか?
――――小学3年生の夏。
あの頃の僕は、毎日うんざりしていた。
家では喧嘩の絶えない両親。
学校では意味なく群がる女子と、それを妬んで虐めてくる男子。
――――全部…全部…この容姿のせいで。
――――なにもかも、この容姿のせいで。
――――暑い夏の日。
あの日も僕は公園に連れていかれて、隣のクラスの男子に気にくわないと一方的に殴られていた。
どうせ…このまま死んでも、何も困る人なんていない。
もういっそのこと、殺してくれたらいいのに。
――――そう思っていた。
「やめなさいよ、あんた達!」
勇ましい声。いじめっ子の前に仁王立ちする一人の女の子。
…――――そんな君に、出逢うまでは。
束沙ちゃんはまるで、テレビに出てくる正義のヒーローみたいだった。
強さに自信があって、誰にも媚びていなくて真っ直ぐで…
そんな彼女が眩しかった。
――――そして、非力な自分の弱さに涙した。
「あんたもさ、男ならやり返すぐらいしなさいよね」
お礼を口にした僕に、イラつきながら言った彼女の台詞。
(…どうして君は、他の誰とも違うんだろ…――――)
すぐに背を向けて歩いていってしまった君は知らない。
僕を、一人の“男”として見てくれたんだと、
初めて気持ちが昂ったあの瞬間の感情は…―――
生きることを諦めていた僕の心を動かしたんだって。
――――もっと、知りたい。
君の表情をもっと見たいと思ってしまった。
僕に向ける感情、まっすぐにぶつかってきてくれる君の顔をもっと…ーーー。
――――僕だけに…もっと。