自分本意な彼
「――――…新入生代表、神崎真琴。」
(真琴、まさかの首席?)
新入生代表の挨拶を終えた真琴を、私は驚きながら新入生の席に座って見ていた。
多分、私以外に同じ中学出身がいないので、驚いているのは私だけだと思う。
(あの人、中学3年の秋まで立派な引きこもりだったんですけど?)
そうとは思えない堂々としたスピーチ。
あの真琴(変人)にしてはまともに挨拶をしたので、そこにも驚いていた。
ただ、私をガン見しながらなのはどうかと思うけど。
「ね、あの人めっちゃイケメンだよねー」
「やばい、王子様みたいー」
ヒソヒソと周囲の女子達が話をしているのが耳に入ってきた。
(王子様?―――いや、真琴の本性は…。)
私が見た目に騙されている周囲の女子達を憐れんでいると、挨拶を終えたはずの真琴がマイクに顔を近づけた。
「あ、一つ。私事ではありますが、忠告しておかなければならないことがあります。」
挨拶を終えたら、あとは壇上から降りるだけ。
そう思っていた私を含め、全生徒…いやこの場にいた全員が驚いて真琴を見る。
(まさか…こいつ、まさか…ーーーー。)
私は嫌な予感で背中に冷や汗がツーッと伝った。
「一年A組の砂川束沙さんは、僕のモノですので、皆さん僕に無断で話し掛けないようにしてください。」
(言った…―――――!!!)
私はそのまま気を失いたかった。
あ、希望であって、実際は青ざめたままうつ向いてるだけだったけど。
「以上です。」
マイクのスイッチを切り、壇上を降りる真琴。
さぞ、満足そうな顔をしていることだろう。
――――それより、ザッと周りから一歩引かれた私は、どうしたらいい?
入学式が終わり、私は駆け寄ってきた真琴に訴える。
「真琴…ひどい。私言ったよね?悪目立ちしたくないって」
(ふりじゃないんだけど!!)
初日にして、クラス全員から変な目で見られてる私。
マジ終った…――――。
唯一の救いは、お母さんが仕事で入学式に来ていないことだ。
「泣かないで、束沙ちゃん。束沙ちゃんには僕がいるでしょ?」
慰めようとする気がないことは、その笑顔から嫌でも伝わる。
「真琴は私のことが嫌いなの?」
「まさか」
私が涙を拭いながら真琴を睨み付けると、真琴は心外だという表情で即答する。
「愛おしくて愛おしくて、誰の目にも映したくないぐらい愛してるよ」
(真顔で言わないで。全く嬉しくないから。ていうか怖いから)
「束沙ちゃんの泣き顔、大好き」
そう言って、目を細めて、頬をほのかにピンク色に染め、美しい笑顔を見せる彼は、本当に変人だと思う。