自分が分からなくなったら?
真琴が不満そうな表情で、私を見下ろす。
「おかしいなぁ…どうして抵抗してくれないの?」
角度を変えながら何度となく唇を重ね続けられ、ようやく離した思ったら、不満げにそう言われたのだ。
(抵抗出来ないのは、あんたのせいでしょ…ーーーこの変態っ!ばかっ!)
ベッドに縫い付けられるように手を押さえつけられ、思うように動けない。
そんな中、蕩けそうな感覚に溺れかけていた私は、真琴を直視できずに顔を背ける。
「もっと嫌がってみせてよ、束沙ちゃん」
言いながら、顎に手を添えられ強制的に目を合わせられた。
唇を舐めるようにして、真琴が色っぽく私を見下ろす。
やられた…―――と私は思っていた。
きっと、あの中華料理に媚薬でも入っていたんだ。
近藤さんの手作りとか聞いて、油断した…。
(そうじゃなかったら、私だってもっと抵抗するし!こんな、気持ちよくなんて…―――。)
「!?」
(今、私…なんてーーーー?)
どうしよう、ついに頭おかしくなった?
かぁぁっと、勝手に身体が火照っていくのが分かった。
きっと今私は、耳まで真っ赤になってると思う。
「僕はね…、束沙ちゃんが僕を嫌がって怒った時の顔が大好きなんだよ」
いまだ不満げに、真琴が言う。
「は?」
「束沙ちゃん優しいから、本気で嫌がったり怒ったりしないでしょ?」
(…普段から私が本気で嫌がったり怒ったりしてたのは、何だったんだろう…。あ、全く伝わってなかったってことか。)
「でも本気で嫌がられたり、怒ったりされると…すごく愛を感じられるんだよね」
なにを回想しているのか、そう言いながら頬を赤く染めている変態美少年。
そしてそんな彼に、まんまと油断して、組み敷かれている私。
(真琴の瞳に、私は今、どんなふうに映っているんだろう…。)
「―――痛ッ…ーーー」
首筋に、真琴の唇が触れたと思ったら、また噛みつかれたような…痛みがはしった。
「こうやってキスマークつけていくより、あいつみたいに太股に撫でまわした方が、嫌がってくれるの?」
――――真琴が真顔で聞いてくる。
そして、私の制服のスカートを捲し上げて太股に触れた。
「やだ…っ…―――まこ、止め…っん」
あの時の…塚田の時みたいに…乱暴に―――なのに。
(なんで…?―――違う…。あの時と違う―――…)
真琴に触れられると、なぜか身体が…熱くなる。
(―――この感覚は、何?やっぱり私、薬でも盛られた?)
「束沙ちゃん、…気持ちよくなってない?」
ピタッと手を止めた真琴が、驚いた声で私の顔を見つめる。
「なって、ない…っ!―――もう…止めて」
(こんな自分どうかしてる…、こんなの嫌だ…ーーー)
私が泣きそうになりながらそう言うと、
「どうしよう…」
少しだけ体を起こした真琴が、思わず緩んだ口元を隠すように右手で覆いながら何か呟いた。
「―――想定外だな…」