用件が済んだ後は?
「まこちゃん…」
私と目が合っているのに、なぜか高橋くんは真琴の名前を呼んだ。
「え?」
(――――何でそうなった?)
≪※それは『私は…真琴』と呟いたから←『合コンが強姦に変わった時の対処法は?』参照≫
「た、高橋くん。私の名前は束沙です…。砂川束沙」
―――…思わず名乗ってしまった。なんか恥ずかしい。
「え、でも昨日…」
高橋くんが何か言いかけ、首をかしげる。
「真琴ってのはこっちです、神崎真琴。」
私は、ついでに真琴の紹介もしてしまった。
何か喋っていないと、緊張で、間が持たなくて――――。
「あ、君…昨日のーーー」
どうやら高橋くんは、真琴のことも覚えていたらしい。
(昨日一瞬しか、会ってなかったと思うけど…、高橋くんて記憶力良いんだ…!カッコイイ!)
「高橋くん、これ…昨日借りたまま帰っちゃってごめんね」
私は、ハッと今日ここに来た目的を思い出した。
そして、手に持っていた紙袋を手渡す。
「あぁ、貸したの忘れてた。わざわざ持って来てくれたんだね。ありがとう」
紙袋の中を覗き込んでから、高橋くんが明るい笑顔で言う。
(高橋くんの笑顔…ステキ…ーーーー)
きっと私はこの時、目がハートマークになっていたと思う。
「あの、昨日は助けてくれて本当に…――――」
私が改めてお礼を言おうとした時、ぐいっと右腕を引っ張られた。
「束沙ちゃん」
(あ…ーーー真琴の存在、忘れてた…)
不機嫌極まりない真琴の表情に、私の浮かれていた気持ちは一気に消える。
「…用件も済んだことだし、帰ろ?」
グイグイと腕を引きながら、真琴が背を向けて歩き出す。
「ちょっと真琴、引っ張らないで…ーーー」
私は唖然としている高橋くんに手を振る余裕もなく、その場を離れることになった。
(高橋くんと…もっと話したかったのにぃーーーっ)
二人に戻ると、真琴の機嫌は戻っていた。
無理やり掴まれていた右腕も離されたので、庇うように左手で擦る。
「束沙ちゃん、今日は一緒に夕御飯食べよう?」
ねっ、いいでしょ?と横から可愛らしく顔を覗き込んでくる。
「え、何よ…唐突に」
ついさっきまで不機嫌だったこともあるので、私は少し警戒した。
「もっと一緒に居たいから」
真琴が、ニコッと最上級の笑顔で言う。
(それ…その笑顔が、怖いんだよ…ーーー)
真琴が、腹のなかで何を考えているのか、全く分からない。
「や、私帰るよ、帰って夕御飯作る…」
私は直感的に危険だと判断して、自然に断ろうとした。
あくまで、自然にー―――。
だけど、現実はそんな上手くいくことばかりじゃなくて…―――。
「束沙?」
(あぁ…、やっぱダメだったか…―――)
私を見つめる真琴の目が、全てを見透かしているような、かなり本気なやつだったので、
「―――はい…」
私はそう…素直に返事をするしかなかったのだった。
(――――私は、今日無事に自宅に帰れるのかな…)
遠い目をしながら、こんなことを考えるのはおかしいですか?