男子校の校門で出待ちする時の心構えは?
「束沙ちゃん、どうしたの?」
―――放課後、いつものように私の隣には真琴。
奏ちゃん達にはなぜか朝から怯えられ、目すら合わせて貰えなかった。
(クラスで孤立した私と真琴、うん、すっかり元通り。
いや、皆の様子から察すると、事態は悪化したのかも…。)
「おーい、束沙ちゃん?」
(なんだろう、昨日私何かしたかな?いや、されたのは私の方なんだけどな…ーーー)
チュッと音がして、突然左側の頬を真琴にキスされた。
「な゛っ!?」
左頬からゾワッと鳥肌がたつ。
「僕のこと、無視しないでよ…」
拗ねたように、真琴が頬を膨らませて見せる。
(だからって、キスなんかすんな、ばかっ!)
…なんて言えるはずない、我慢して、スルーしよう…。
「無視してないよ、考え事。なんか奏ちゃん達があまりにびくついてた気がし…て…ーーー」
(あれ?なんかーーーーその理由に気づいてしまった気がする…ーーー)
「そう?」
素っ気なく言いながら、真琴が微笑む。
やめよう、もう考えるのやめよう。話題、変えよう――――。
「ねぇ、本当に真琴もついてくるの?」
私がそう言うと、真琴の顔から笑みが消えた。
「金南高校は男子校だよ?束沙ちゃん一人じゃ危ないでしょ?」
「…それは、そうだけど」
(私が心配なのは、美少年な真琴の方が危ないかなって…ーーー)
偏見かもしれないけど、男子校なら同性愛者もいるのでは?
それに、真琴なら…ーーー女の子と間違えられてもおかしくないというか…。
相手は純情部ならぬ、柔道部って言ってたし。
(なんだあのジョーク、思い出しただけでイラッとくるな…)
私が一人を相手したとしても、残り二人の野獣と華奢な真琴…勝ち目ない…。護りきれないし、危なすぎる。
「僕がついてくから、大丈夫だよ!」
私が青ざめていた理由を履き違えた真琴が、安心させようとどや顔で言う。
(いや、だから…ーーー余計に心配なんだってば…)
金南高校の校門前、高橋くんの連絡先を知らない私たちは、会う手段として、出待ちしているところだった。
「君達、二人とも彼氏待ってるの?」
案の定、金南高の生徒に声をかけられる。
(男子校の校門に女子と見た目美少女が立ってたらそりゃ気になりますよねー?)
とりあえず、真琴を護らないと…、そう思った私は自ら一歩前に出る。
「違います!私は高橋く…ぐっ」
(痛っ、なんで私が弾かれた?)
高橋くんへの手掛かりにと思っていたのに、それを尋ねることすら出来なかった。
気を取り直して振り返ると、私の頭を弾いた男子校生が、真琴に迫っている。
「特に、キミ、すごく可愛いねー!ナンパ待ち?」
(あ、やっぱり…真琴目当てだった…)
正真正銘の女子はこっちなのに!と言いたくなったが、
止めておこう。
それより、真琴から放たれている殺気が、ヤバいことになってるから。
「消えろよ」
真琴が自分より10センチ程背の高い男子校生を睨み付けて言う。
「ん?何、それツンデレ?可愛いな!」
男子校生が、なにをトチ狂ったのか、真琴の顎に手を伸ばす。
(どんだけポジティブ思考だよ…あんなに殺気溢れてるのに分からないの?)
「ちょっとあんたねっ」
私が真琴を庇おうと男子校生に近寄ろうとした時、
バチチッとなにやら激しく火花の散る音がした。
「―――死にたいの?」
無表情の真琴が男の前に、凶器を突き出して言う。
「わぁ、なんだこいつ…っ」
男は化け物でも見たかのように、猛ダッシュで逃走した。
(そそそそそれって…スタンガンーーーー!?)
私も思わず後ずさっていると、誰かに背中が当たった。
「「あ」」
それは、“脚フェチの塚田”だった。
「昨日はすみませんでしたぁー!」
私の顔より、その前に立っていた真琴の顔を見て、
“脚フェチの塚田”も、一目散に逃走。
「…―――?」
(謝るのは、私にでしょ…ーーあんなことして…ーーー)
「あいつ、視界に入るのも許されないのに」
舌打ちしながら、ボソッと真琴が言う。
私は拳にぎゅっと力を込めた。
(悔しい…ーー)
「束沙ちゃん?」
真琴が私の顔を心配そうに覗き込む。
「いや、なんか急に足が…」
私は何でもないかように振る舞おうとした。
でも、身体がいうことをきかない。
(…足が震える…ーーーなんで?昨日のことなんて、あんなの…何でもないのに…ーーー)
「大丈…―――」「まこちゃん?」
真琴が私に声をかけるのと同時に、背中の方からも声がした。
私はバッと勢いよく振り返る。
「高橋くん…ーーーー」
そこには、驚いた様子の高橋くんが、ちょうど校門から出てきたところだった。