悪夢から覚めても悪夢な場合は?
『会いたかったよ、僕の束沙ちゃん』
サラサラの長い前髪からのぞく、大きく丸い瞳。
小さくかわいらしい唇が、私の名前を呼んだ。
『―――神崎…真琴…』
(この子が?この、美少女が?)
見た目は美少女だが、声は低い。
―――それが…15才になった神崎真琴に、私が再会した時感じた、第一印象。
『やっと逢えた…ーーー…束沙ちゃん。もう何処にも行かせないから』
彼の美しさに見惚れている間に抱きつかれ、私は背筋がゾクッとした。身体が凍り付いたようなこの感じ…ーーー。
(逃げたい、逃げなきゃ……――ドウヤッテ?)
―――チュンチュン…雀の鳴き声で私は目を覚ます。
(鳥のさえずりって、平和の象徴だわ…。)
そんなことを感じながら目を擦り、起きようと伸びをする。
(―――…やっぱりあれは夢だったか。当たり前だけど)
ふと、先程まで見ていた夢の内容が頭をよぎる。
(悪夢だったな…ーーーー)
今思えば、あの…開かれた扉の向こうへ一歩足を踏み入れたりしなかったら――――違っていたのかな…。
私は伸びを終えて、起きなくちゃと身体を横に向ける。
「おはよう、束沙ちゃん。怖い夢でも見たの?」
「………。」
(――――デジャヴ?)
またしても、私の視界に真琴の笑顔が飛び込んできた。
もはや、どうやって侵入したのか聞きたくもない。
ちなみに悪夢の主役は真琴でしたよ。
「ところでさっきから見当たらないんだけどどこに隠したのかな?」
探し物が見つからないんだよねーとあちこちを物色しながら真琴が言う。
(爽やかにサラッと言ってるけど、ここ私の部屋だから。)
「…何が見つからないって?」
寝起きの私は、まだ頭が働いていなかった。
「アイツのブレザー」
ニコッと可愛らしく微笑んで、真琴が言う。
(あぁ、念のため寝る前に隠しておいて良かった)
私は真琴の探し物が高橋くんのブレザーだと知り、
見つかっていないことにホッとする。
「着替えるから、出てて」
私は起き上がって、真琴の背中をグイグイ押し出す。
「え、何で?」
驚いたように真琴が言う。
「何でって、恥ずかしいからに決まってるでしょ?」
(私、幼児体型だけど幼稚園児ではないので…人前での着替えは恥じらいますよ?)
「あ、消毒するの、忘れてた!!」
突然声を上げて、真琴がまた私の部屋に入ってくる。
(え?消毒っ…―――って、んっっ!?)
―――油断した。
私は真琴に、布団の上に押し倒された。
真琴が片手で私の両腕を拘束しながら、
もう片方の手で、私のパジャマのズボンに手をかける。
(―――ななな、何する気っ?)
真琴の顔が視界から消えたと思ったら、太股に痛みが走った。
「んんっ、ちょっ、――めてっ、痛いっ」
(噛んだ?今私の太股噛んだ?)
「ちょっと束沙ちゃん、そんな煽らないでよー。困る!」
満足そうに手を離すと、真琴が照れながら言う。
「煽ってない!痛がってたんですけどっ?」
私が全力でツッコむと、真琴が更に幸せそうに笑顔になる。
「もうっ、束沙ちゃんたら…!」
「………。」
(誰か…この人何とかしてーーーーっ。言葉通じないよー)