合コンが強姦に変わった時の対処法は?
――薄暗く、煙草の匂いが染み付いた部屋。
(うわ…カラオケとか久しぶりだわ…ーーー。
中学の時、友達と来たときは楽しかったなー。)
田舎の中学に二年生までいた私の、そこでの遊びと言ったら友達とカラオケぐらいだったのを思い出す。
「―――で、束沙ちゃんはどんな人がタイプなの?」
早速名前で呼んでもらえて、“女友達”っぽい待遇に嬉しくなる。
「タイプ…?」
(なんだろ、何も頭に浮かばない…ーーーー)
言葉を詰まらせていると、痺れを切らしたようにクラスの女の子…(確か奏ちゃんだったかな)…が言う。
「なんかあるでしょ、一重がいいとか、背が高いとか、黒髪がいいとか、筋肉質がいいとか…―――」
「―――…」
(それって全部真琴に当てはまらないな…というか、正反対だな…ーーー)
「束沙ちゃん?」
奏ちゃんが私の顔を覗き込んで、我に返る。
「へ!?」
(私…今、無意識にナニ考えてた?)
「私ちょっと御手洗いに…ー」
奏ちゃんが、恥ずかしそうにそう言うと、
「あ、私もー!」
「じゃあ私もー!束沙ちゃん、待っててねー」
あとの女子二人もそれに倣って個室から姿を消す。
(あ、あれ…?)
そして、カラオケルームになぜか、初対面の男の子三人に私一人が残された。
(めちゃ気まずい…。存在忘れてたけど、金南高生居たんだった…)
「…あ!なんか歌います?」
私が気を遣ってそう声をかけると、
「てかさ、あの三人今頃Tサミットだよなー」
「違いない!」
「君は行かなくていいの?」
すごい高めのテンションで話し掛けられた。
最近の男子高生は真琴しか知らないので、こういうテンションは、疲れる。真琴のも疲れるけど。
(というか、“Tサミット”?なんだそれは…ーーーー)
「あ、私は…ーーー」
Tサミットの意味は分からなくても、自分だけ孤立したのは分かる。
(なんかこういうの、辛いな…―――)
私が愛想笑いで誤魔化そうとすると、
「あ!分かった、もしかして…男好き?」
なんか勝手な解釈をされた。
「はい?」
「俺、束沙ちゃん顔はタイプではないけど脚はキレーだなと思ってたんだよなー」
(“顔はタイプではない”って失礼な!私だってあんた全くタイプじゃないわ!)
私は、青筋を立てながらも愛想笑いでかわそうとした。
「出た、塚田の脚フェチ!」
他の男子が悪ノリし出す。
「は?」
(なんなの、このノリは…ーーーてかただの野獣じゃんコイツら…)
異常な盛り上がりをみせる男子三人に、私は少し距離を取ろうとする。
すると、ソファーを横滑りしながら私の隣につけてきた“脚フェチの塚田”が、私の太股に手を伸ばしてきた。
「ちょっと触んないでよっ!」
思わずその“脚フェチの塚田”をドンと押す。
「あれあれぇ?束沙ちゃんて純情系?」
そう言いながら、反対側もいつの間にか男子が座ってきてきた。
(あ、ヤバい逃げ場が…ーーー)
でかくて重いテーブルが邪魔で、逃げ場が塞がれる。
「奇遇だね、俺らも“純情部”なんだよねー」
「バッカ、渡部お前…!柔道部だろーが」
ギャハハと下品な笑いが響き渡る。
(いや、全く笑えないけど…ーーーてか身内で馬鹿ウケって…)
「じゃあ束沙ちゃんに寝技でも教えてあげようぜ…ーーー」
「ちょっと…んっ」
身の危険を感じて抵抗しようとした私を、“純情部発言の渡部”が口を手で塞いできた。
そして“脚フェチの塚田”が私の太股に再び手を伸ばしてくる。
(スカート勝手に…捲るなーーーっ!誰か…ーーー!)
私が目を瞑ってそう祈ったときだった。
「おい、お前ら…ーーー」
…まるで、正義のヒーローみたいな、格好良さだった。
低くて、ドスの利いた声。
背は高くて…多分180センチはあると思う。
そして広い肩幅、ブレザーを着ていても分かる筋肉―――、
“これぞ男”みたいな人。
「あ…高橋くん…」
“脚フェチの塚田”が青ざめ、素早く私から手を離す。
「何やってんの…」
“高橋くん”は、眉間に皺を寄せたまま、塚田を睨み付けている。
「…こんなことして、お前らただで済むとでも?」
高橋くんのその一言で、三人はこそこそと身支度を整え始めた。
そして唖然としている私を残して、
「帰るわ」
「あ、俺も用事思い出した」
「俺も俺もーじゃあ…」
そそくさとカラオケルームから出ていった。
「おい、待てよっ!―――ったく…」
追い掛けようとしたが、一瞬こちらを見た。
どうやら一人残される私のことを配慮してくれたらしい。
ブレザーを脱ぐと唖然としていた私にそっとかけてくれた。
「すんません、大丈夫ですか?」
高橋くんが心配そうに声をかけてくれる。
「あ、はい…ありがとうございます…」
(ヤバい…このシチュエーションは反則だよ…)
私は恥ずかしくて顔をあげることが出来なかった。
だって…絶対今顔…赤くなってる…ーーー。
「あいつら今日なんかイラついてて…そんなの言い訳にもなりませんよね…」
頭を掻きながら、高橋くんが言う。
カラオケを出た私は、高橋くんと並んで駅まで向かって歩いていた。
どうやら奏ちゃん達は、すでに帰ってしまっていたらしい。
(全くひどい目に遭った…なのに、なんだろう…今日高橋くんに出逢えただけで、それが“チャラ”に出来ちゃう…)
「あ、俺…高橋由樹って言います。」
そう言えば、みたいなタイミングで高橋くんが名乗る。
「私は…――――」
私も名前を告げようとして、高橋くんの方を見上げようと視線を上げる。
その瞬間、目の前から私に向かって真っ直ぐ歩いてくる姿に…―――私は息をのんだ。
「…―――真琴…」
道にはかなり人がごった返していたが、真琴は真っ直ぐ私に向かって来る。
ギクリとした。真琴の無表情が、あまりに美しくて…怖くて。
「帰ろ…?」
真琴はそれだけ言うと、私の手を引いて足早に歩き出す。
「え、ちょっと…ーー」
私は驚いて立ち止まったままの高橋くんを名残惜しく振り返る。
(あぁ…高橋くん…ーーー!!)