頼み
「ここで、終わりか?」
「そう」
ルヴィカに父親であるルカが作った全ての建造物を案内してもらったアンリは、顎に手を当てて「うーん」と唸る。
「ねぇ、何を考えてるのか教えてよ」
シャロンの言葉にアンリはただ、笑って無言で答えるとルカが造ったと言う屋敷を見上げた。
「やっぱり、お前の父親はすごいな」
「へへ、ありがとう。きっと親父も喜んでるよ。この屋敷はいろんな人が一緒に住める共同住宅なんだ。…住み心地もいいって評判だったんだけど、ここはもうすぐ取り壊されちゃうんだ」
「…ローエルのお父さんのせいで?」
「それもあるけど、住民の人がこの家だと安心して暮らせないって」
聞いてはいけないことを聞いてしまったと、気まずそうな顔をしてシャロンは「そう」とだけ言って相づちをした。
「もう、日が暮れてきちゃったし帰ろう!アンリたちは明日までいるんだろ?きっと今日もファリスがご馳走つくって待ってるだろうし」
ルヴィカが努めて明るい声で、場の空気を和ませようと提案する。
シャロンも少し安堵したような顔をして頷いた。
「そうね、私もお腹ペコペコ」
「…あ、ちょっと待って。買い忘れがあってさ。シャロン、ちょっと付き合ってくれないか?」
突然のアンリの言葉にシャロンはキョトンとして首をかしげた。
「忘れ物?」
「ああ。…悪い、ルヴィカ。先に戻ってファリスさんに遅くなるって言っておいてくれないか?」
「え?ああ、うん。わかった。…あ、大通りとか自警団とかまだ彷徨いてるかもしれないけど…」
「大丈夫、結構強いから」
ニヤッとアンリは笑うとルヴィカの頭を撫でて「じゃあ、頼んだ」と言ってシャロンを引き連れて大通りの方へと向かう。
「ねぇ、アンリ。何忘れたの?」
「ん?何も忘れてないけど」
「は?じゃあ、なんで買い物なんか…」
「それはルヴィカと別行動をするための口実なんだ」
「どうして?」
シャロンの質問にアンリはちょっと考えた後、真剣な顔をして足を止めた。
「ちょっと、 シャロンにお願いがあるんだ」
「…お願い?」
「そう」
アンリの笑顔にシャロンは嫌な予感しかしなかったが、とりあえず頷くことしかできなかった。