根拠
三人は教会の裏口から脱出すると、直ぐに近くの裏通りに隠れた。
「…はぁ、はぁ、…ちょ、ちょっと、アンリ…!何てことしてんのよ!」
シャロンは荒くなった息を整えながら文句を言う。
「だって、腹立つだろ?まぁ、怪我しない程度だし大丈夫だろ」
「あの人絶対怒るよ!プライド高かったし!!」
あわあわ、しているシャロンにルヴィカは頷いて同意すして外の通りをちょっと覗くと少し困ったような顔をしてこちらに戻ってきた。
「自警団まで、出てきておいら達を探してるよ」
「自警団?」
「そう、ローエルの親父が作ったんだ。…最近、ファリスの魔力も落ちてるし、街を守れるようにって。まぁ、ほとんどローエルの親父の私兵みたいなもんだけど」
ルヴィカの説明に納得したように頷き、アンリはヘラっと笑った。
「じゃあ、ほとぼりが冷めるまで隠れながら移動しよう。…なぁ、ルヴィカの父親が作った建造物を案内して欲しいんだけど」
「え?ああ、うん。いいけど…」
ルヴィカはちょっと困惑しながらも頷くと、早速案内するために裏路地の奥へと進む。
「ねぇ?ルヴィカの父親の建造物を見てどうするの?」
シャロンに耳打ちされて、アンリは苦笑すると頬を掻く。
「ん?ちょっと気になることがあってさ。…もしかしたら、変えられるかも」
「え?」
「なんでもない。ほら、ルヴィカに置いて行かれるぞ?」
「あ、ちょっと待ってよ!!」
二人は小走りにルヴィカの後を追いかけた。
‐それから数時間後。
ファリスが庭に出てシーツを取り込んでいると、ロナエがこちらに向かってくるのが見えて心底嫌そうな顔をした。
「…全く、何の用だろうね?」
シーツを籠の中に突っ込むと、ロナエ達を出迎えた。
「やぁ、ロナエ。何か用かい?」
先程の嫌そうな顔を微塵も見せずに、爽やかな笑顔を浮かべる。
対して、ロナエは冷ややかな目でファリスを見てから口を開いた。
「…今日、ルヴィカと見慣れない二人組が私と息子に暴行してきた」
「ふむ、二人組が?…怖いねぇー」
とぼけてそう言いながら、アンリとシャロンかと思い内心ため息をついた。
ファリスがとぼけているのに当然気づいているロナエが舌打ちをすると、胸ぐらを掴んだ。
「とぼけるな。ルヴィカといたんだ。お前の知り合いだろう?…これ以上私の邪魔をするなら、ここも壊す。そう、ルヴィカとあの二人に伝えろ」
「悪いけど、ここは壊させないよ。ここは大切な場所だからね」
ファリスは胸ぐらを掴む手を振り払うと、スッと目を細めた。
「どうして君はそこまでルカに執着するんだい?…あの事件だって本当は君が仕組んだろう?」
「何故、そう思う?」
「ルカはそんなずさんな事をしないからね」
ロナエはふん、と鼻をならすとファリスの胸ぐらを放した。
「そう思うなら、何故言わない?」
「ローエルが可哀想だからね」
「偽善だな。ルヴィカは可哀想じゃないと?」
「ルヴィカはローエルよりずっと強い。きっとこの逆境を乗り越えられる」
そう言って笑うファリスに背を向けるとロナエは歩き出す。
「私はお前とルカのそう言う根拠の無いことに自信を持つところが大嫌いだった」
吐き捨てるように言い残すと、ファリスの前から去っていった。
「根拠が無い、か」
肩を竦めた後、ファリスは街の方を見下ろした
「んー、三人とも自警団に捕まらないといいけど…。あ、今日はカレーでも作ろうかな」
ファリスは何事も無かったように家事の続きに専念する。