ジオーグの朝
‐次の日。
窓から射し込む日の光でシャロンは目を覚ました。
「…ん、眩しい…」
シャロンは眉間にシワを寄せると、布団を頭から被って日光を遮りもう一度眠りにつこうと試みる。
が、旅をするようになって太陽が昇るのと共に起きる習慣が身に付いてしまったせいで眠れない。
「せっかく、ふかふかのベッドで寝てるのに…」
布団の中で呻くと、諦めてシャロンは起き上がりグーっと伸びをした。
「ふぁー。やっぱり地面よりも遥かに目覚めがいいな」
欠伸で出た涙を拭うと、ソファーの方に視線を向ける。
早起きしてしまったし、暇潰しで昨日の入浴中に入ってきた腹いせにアンリを少し驚かしてやろう。
ニヤリと黒い笑みを浮かべ、静かにベッドから降るとゆっくりとした足取りでソファーの前まで来て、背もたれの後ろに隠れ大きく息を吸い「わっ!」っと叫び声をあげてソファーを覗き込む。
が、シャロンはキョトンとする。
「あ、れ…?」
そこに寝ているはずのアンリはいなかった。
「なんだ、いないのか…。せっかく驚かせようと思ったのに」
シャロンは残念そうにため息をつくとベランダに繋がる大きな窓の方を見た。
せっかくジオーグの街でも高台にあるルヴィカの家に泊めて貰ったのだ、アンリが帰ってくるまで景色を楽しむのも悪くない。
そう思ったシャロンは窓へと歩み寄ると、窓を開け放つ。
フワッと朝の涼しい風が頬を優しく撫で、栗色の髪を揺らした。
風を楽しんだ後、シャロンはベランダへと出るとその景色に目を輝かせた。
「ジオーグって綺麗な街ね…!」
昨日は気づかなかったが、街の建物の屋根は全てが赤く色づき朝日を浴びてキラキラと輝き、壁にはジオーグを守る城壁と同じく凝った彫刻が施されており、街並みの中心には空高く伸びた屋根が目立つ教会があり、周りの建物よりも豪奢だった。
その光景は生まれ故郷のヒューディーク村はもちろん、リラースタンとは比べ物にならないくらい美しい。
シャロンがジオーグの街並みに見惚れていると、下の方で掛け声が聞こえてきた。
不思議に思って下を除くと、アンリが庭で氷月華を振るって見えない敵を倒しているところだった。
「アンリはいつも朝起きると、ああやって剣の特訓してるんだよね…」
シャロンは頬に手を当てて、汗を流しながら練習に励むアンリを見て「真面目だなぁ」とぼやく。
「あ、そうだ!…ちょっと驚かせよう!」
シャロンはユエルスを弓に変えると、雷の矢を装填すると、息を止めアンリに向かって狙いを定めた。
アンリが氷月華を構えたままこちらに背を向けて動きを停止さた、その瞬間にシャロンは息を短く吐き出し矢を放つ。
矢は寸分の狂いもなくアンリの背中へと目掛けて飛んでいく。
あ、ヤバイ…。当たっちゃうかも!
シャロンの背に冷たいものが流れ落ちた、その刹那アンリが振り返ると雷の矢を叩き切った。
「さすが…アンリね」
苦笑するシャロンをアンリは下から見上げるとニコリと笑う。
「おはよう、シャロン」
「おはよう、アンリ。朝から訓練お疲れさま」
「シャロンのお陰でいい特訓になったよ」
「それはよかったわ」
少しも驚いてないアンリにシャロンは笑みを浮かべながらも、内心ため息をついていた。