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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第五章
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事故

 アンリはファリスの部屋を後にすると、自分の部屋へと戻る事にした。

 明日はルヴィカに街の案内でも頼もうか、なんて考えているとちょうど部屋からルヴィカが出てくるところだった。


「あ、ルヴィカ」


 アンリに声を掛けられ、ルヴィカは立ち止まった。


「あれ?どっか行ってたの?」


 ルヴィカの質問にアンリは曖昧に笑って「ちょっと、ファリスの所にね」と言った。


「ふーん?あいつの部屋、汚かっただろ?」

「意外とな。家が綺麗に片付いてるから、部屋も綺麗なのかと思った」

「そんなの見せかけだって」


 ニシシっと笑うルヴィカを見てると、ただの少年のように見える。

 街中の人から嫌われてるのようには思えないり

 じっと自分を見つめるアンリの視線に気づいて、ルヴィカは怪訝そうな顔をした。


「何?おいらの顔に何かついてる?」

「え、あぁ、ごめん!…えーと、あ、そう!風呂場がわからないから教えてもらおうかと思って考えたら無意識にルヴィカを見つめてたみたいだ」


 慌てて誤魔化すアンリにルヴィカは怪しんで、睨むがやがてため息をつく。


「いいよ、案内してあげる」

「ありがとう!じゃあ、ちょっとここで待って!」


 アンリは自分の部屋に戻ると、着替えやタオルを手に取る。


「…あれ、シャロンがいない?」


 まだ、風呂に?いや、でも、さすがに時間が経ってるし一人で散歩に行ったのか?


 疑問に思ったが、特に気にすることなくルヴィカの元へと戻る。


「じゃ、よろしく」

「うん。こっちだよ」


 ルヴィカに先導され、風呂に向かう道中アンリはふとあることを思い出す。


「そういえば、ルヴィカの用は大丈夫なのか?」

「おいらはただ水を飲みに行くだけだから大丈夫」

「そっか、ならよかった。…あ、そうだ。ルヴィカ明日暇か?」

「え?明日?…暇だけど」


 少し警戒しながら答えるルヴィカにアンリは安心させようと、笑いかけた。


「もしよかったら、街の案内を頼みたいんだ。この街広いし、観光できるのは一日しかないからさ」

「あー、そっか。わかった、おいらでいいなら引き受けるよ」

「ありがとう、助かるよ」


 アンリはほっとして礼を言った。



 その頃、シャロンは浴槽に浸かりながら過酷な旅のせいで絡まってしまった長い髪の先を丁寧に解していた。


「…っと。これで最後かな?」


 手櫛で髪をとかすと、指に毛が引っ掛かる事なく通った.

 それを何度か繰り返して、絡まった毛先が無いのを確認して満足そうに伸びをする。


「あー、時間かかった。…そろそろ出ないと、私の他に後、三人入るんだよね」


 気持ち良すぎて時間を忘れてしまった。

 シャロンは名残惜しそうに、浴槽から立ち上がると脱水所の扉を開き中に入ると、用意していバスタオルで身体を拭く。


「毎日、お風呂に入れれば旅も楽しいのにね」


 その時、不意に扉の向こうで誰かの話し声が聞こえた。

 しかも、二人で楽しそうに話している。

 声からして一人はアンリだ。

 だんだん、声がこちらに向かっているのか近くなってる。

 キョトンとしていた、シャロンがハッとして慌てて扉に駆け寄ろうとした刹那、扉がアンリによって開かれた。


「!?」

「…っ」


 予想外の事にルヴィカが顔を赤くし、シャロンは何が起こったのかわからないままタオルを抱き抱えるような姿で立ち尽くす。

 一人、冷静なのはアンリ。


「あ、悪い。まだ入ってたんだな。じゃあ、もう少し待ってるか…ぶっ!」


 喋っている最中だったアンリは、頬にシャロンの平手打ちが当りそのまま吹っ飛ぶ。


「ぎゃー!アンリ!!」


 ルヴィカが泣きそうな顔でアンリに駆け寄る。

 アンリはルヴィカに助け起こして貰いながらシャロンの方を見る。


「何すんだよ!」

「それはこっちの台詞よ!!この変態!スケベ!!最低!!!!ここから出ていけー!!」


 シャロンは顔を真っ赤にして叫ぶと近くにあった石鹸や、桶をぶん投げてピシャリと扉を閉めた。


「い、今のは何だったんだ…?」


 唖然とするアンリにルヴィカは肩を竦めた。


「えっと、今のは事故だよ。でも落ち着いたらシャロンに謝りにいこうね」


 何がいけなかったんだろう?

 ただ間違えて中にはいっただけなのに。

 そこまで怒らなくてもいいんじゃないか?


 そう思ったが、アンリはとりあえずルヴィカの言葉に頷いた。


 シャロンはというと、顔を真っ赤にしてその場に座り込み顔を両手で覆い隠していた。


「男の人に裸見られた…!お嫁にもういけない…」


 それからショックから立ち直ったシャロンが脱水所から出てきたのは一時間後のことだった。







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