出来ること
―同時刻
アンリは食堂にいるファリスの元へと来ていた。
機嫌が良さそうに、鼻歌を歌いながら洗い物をしているファリスに声をかけようか迷ったが声をかけることにした。
「ファリスさん、あの…」
「ん?どうしたんだい?」
アンリに気づいたファリスが首をかしげて手を止めた。
「えっと、ちょっと話が…」
言いにくそうな顔をしているアンリに、ファリスは笑って頷いた。
「うん、じゃあ、ちょっと待てて。僕の書斎に行こうか、そこなら言いにくい話もしやすいだろうから」
アンリは驚いた後、苦笑して頷いた。
ファリスには何でもわかってしまうんじゃないだろうか。
「ありがとうございます。手伝いますよ」
「お、ありがとう。ルヴィカは全然手伝ってくれないから助かるよ」
「照れくさいんじゃないんですか?」
「んー、どうだろうね。ルヴィカの許可なくここに住み着いちゃったからなぁ…」
ファリスはてきぱきと、食器を片付けると紅茶とクッキーを用意してトレーに乗せた。
「さてと、じゃあ、書斎に行こうか。…あ、このお菓子はシャロンとファリスには内緒だよ?二人の分は無いからね」
「わかりました」
悪戯っぽく笑うファリスにアンリは頷くと、トレーを持って書斎へと向かう。
書斎の中に入ると、最初に目に入るのは壁という壁置かれた本棚にところ狭しに並べられた本。
そして、書斎机に山積みになった本たち。
応接用のテーブルとソファーにも本が散らかってる。
「あはは、ごめん、ちょっと片付けるね!」
ファリスは慌てて本をかき集めると書斎机に置く。
「すごいですね…」
「本が好きでね、読んでそのままにしちゃう癖があって…。あ、テーブル片付いたから置いていいよ」
「意外です」
アンリはちょっと呆れ気味に言うと、トレーを置いてソファーをベッドにでもしてるのか毛布が放置してあったので綺麗にたたむと背もたれにかけた。
「いやぁ、面目ない。あ、座って座って」
「あ、はい」
ファリスはソファーに座ると紅茶を一口啜る。
それを見てアンリも紅茶を飲む。
一息ついたところで、ファリスが本題に入る。
「話ってルヴィカの事だろ?」
「…よくわかりますね」
「そりゃあ、わかるよ。君は顔に出やすい」
「え、そうですか?」
アンリは自分の顔を触りながら首をかしげた。
そして、すぐに真剣な顔になる。
「ファリスさんの話を聞いて、ルヴィカに何をしてあげられるのか考えたんです。…でも、何をしてやればいいのか全然わからなくて」
「それで、僕に相談してきたってわけだね」
無言で頷くアンリにファリスは微笑むと首をかしげた。
「どうして、アンリは今日、初めて会ったばかりのルヴィカをそこまで気にかけるんだい?すぐ別れてしまう彼のことなんて、さほどたいした問題じゃ無いだろう?」
ファリスの少し意地悪な言葉。
アンリは少し悩んだ後、自分の過去を話た。
その話を、ファリスは嫌悪感を見せることなく黙って聞いていた。
「辛い話を聞かせてもらってありがとう。…君も大変だったんだね」
アンリは首を横に振る。
「俺のは仕方ないんです、これは俺が背負うべき罪だから。でも、ルヴィカは違う。誇れるような父親なのに誤解されて街の人から嫌われるなんて、そんなのは間違ってる。だから、助けてやりたいんです」
「境遇も似てるし?」
「そう、ですね。俺の父親は全然誇れるような人じゃないけど…」
アンリはそう言って黙り込む。
「ありがとう。でもね、どんなに誤解を解こうと叫んでも人の意識を変えるのはすごく難しいんだ」
「それはわかってます」
それはもう嫌というほど経験している。
「そっか。だからね、君は君に出来ることをしてあげればいいと思うよ」
「え?」
「一番簡単で早く出来るのは、ルヴィカの友達になることなかな?…あの子あんまり友達いないし、アンリとシャロンと友達になれたらすごく喜ぶと思うんだけど」
驚くアンリにファリスはニコッと笑う。
「自分の味方が一人でも多く出来ると心強いと思わない?」
「そうですね…。はい、俺もそう思います」
シャロンはもちろんシエラ達、ドラゴンキング演劇団のみんなの事を思い出してアンリは頷く。
「ありがとうございます、ファリスさん」
「こちらこそ、ありがとう。アンリ」
少し気が楽になったのか笑顔になって紅茶を飲むアンリにファリスは、優しい笑みを浮かべるのだった。