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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第五章
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悩み

「ここが、おいらの両親の部屋。好きに使っていいから。…隣の部屋がおいら部屋だから何かあったら来て」


 “じゃあ”とそれだけ言い残してルヴィカは自分の部屋へと戻っていった。

 それを見届けてから、二人は案内して貰った部屋へと入る。

 中に入ると、すぐに目に入るのはテラスに出るための大きな窓。

 そして、その近くに二人で寝るための大きなベッドと、部屋の隅に二人掛けのソファーがあった。


「ベッド、一つしかないね…」


 一人、あわあわしているシャロンに対してアンリは冷静に頷く。


「そうだな、シャロンがベッドを使っていいよ。俺はソファーで寝るからさ」

「え、でも悪いよ」

「大丈夫、お前の方が旅に慣れてないし疲れてるだろ?俺のことは気にしなくていいから。…先に風呂でも入ってこいよ」


 アンリはそう言ってソファーに座るとシャロンの方を見て笑う。


「二週間、野宿だったから疲れたろ?ゆっくり疲れを流してこいよ」

「うん、ありがとう」


 シャロンは礼を言うと、着替えとタオルを取り出して部屋から出る。

 その後にため息を溢した。


「なんか、男の人と同じ部屋で寝たことないから緊張する…」


 しかもちょっと顔が熱い。

 これじゃあ、なんかアンリのことを意識してるみたいじゃない!


 シャロンは首をぶんぶん横に振る。


「アンリの事を嫌わない努力はするって決めたけど、好きになるとかあり得ないってば!」


 シャロンは自分にそう言うと風呂場に向かって歩く。

 だが、すぐに立ち止まる。


「あ、お風呂がどこだか知らない…。ファリスさんにでも聞けばいいか」


 シャロンはまだ、ファリスが居るであろうキッチンへと向かうと案の時ファリスが鼻唄を歌いながら洗い物をしていた。


「…オカンか」

「ん?あれ、シャロン。どうしたんだい?」


 さっきの言葉が聞こえて無かったのか、ファリスがにこやかに訊ねてきた。


「洗い物の途中すみません、あの、お風呂がどこにあるのかわからなくて…」

「ああ、そうか!言うのを忘れてた」


 ファリスはそう言うと不思議そうな顔をしてシャロンを見た。


「どうかしました?」


 さっきまで普通に話してたのに、急にそんな顔をされると困る。


「…いや、なんか顔が少し赤いけど大丈夫かい?」

「え!?」


 さっきアンリのこと考えてたから!?


「だ、大丈夫ですっ!」


 シャロンはファリスからお風呂の場所を聞くと逃げるようにその場から立ち去る。


「はあ、変に思われてなければいいけど…」


 シャロンは再びため息をつくと、お風呂場の扉を開く。

 少し広い脱水所があり、その奥にガラスで出来た風呂場に繋がる扉がある。

 シャロンは早速、服を脱ぐと浴室へと入る。

 浴室は湯気が立ち込めていた。


「お風呂久しぶりー!」


 二週間、川の水で我慢して髪や身体を洗っていた。

 この日をずっと待っていたのだ。

 浴槽へ入る前にまずは、二週間分の身体の汚れを丁寧に洗い流す。

 それから、シャロンは熱いお湯を張った浴槽へ身体をゆっくり沈めた。


「ふぅーっ。最高…!」


 肌がお湯の熱さで少しヒリつくが、ちょうどいい。

 浴槽の中でシャロンは伸びをすると、天井を見上げてアンリとルヴィカの事を思い浮かべた。


「アンリとルヴィカ、ちょっと境遇が似てるなぁ…」


 親のせいで人々から、嫌われてるところとか。

 きっとアンリは何とかしてやりたいって考えているんだろうな。

 ずっと難しい顔してたし。


「でも、きっとルヴィカを救うのは難しいだろうな…」


 一人の人間の意識を変えるのだって難しいのだ。

 街の人全員にルヴィカも父親も悪くないといくら説明したところで、きっと何も変わらないだろう。


 シャロンは顔の半分を湯に沈めると、ブクブクと口から泡を出す。


 何も出来ないかも知れないけど、アンリが悩んでくれることを自分に話してくれればいいのに。

 そしたら、一緒に方法を考えられるのに。


 シャロンは湯から顔を出すとため息をつき、眉間にシワを寄せた。


「ていうか、ちょっとは頼りなさいよね…!」


 文句を言うと、今度は頭まで湯の中に身体を沈めた。

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