両親
「あ…」
食後のお茶を四人で飲んでいると、ファリスが思い出したように声をあげた。
「どうかした?」
「ルヴィカ、お前の両親の部屋を片付けておいで。今日は僕たちがそこで一緒に寝て、二人には僕とルヴィカの部屋を使ってもらうから」
「え!?ファリスと一緒に寝るのかよ!?」
あからさまに嫌そうな顔をするルヴィカにアンリは苦笑した。
「俺とシャロンが一緒の部屋でいいですよ」
「!?」
お茶を飲んでいたシャロンが吹きそうになるのを堪えて、アンリを見る。
アンリは首をかしげる。
「大丈夫だろ?いつも一緒に寝てるし」
「い、いつもって…。そりゃ、そうだけど…」
野宿と部屋では、なんか違うと思うのだけれど…。
シャロンはそう思ったが、アンリがよくわかってない様なので何も言わずに頷いた。
「そうね。泊めてもらってるしね」
「いいのかい?」
「はい」
「ありがとう…。ほら、ルヴィカ。早く片付けて来なさい」
ファリスの言葉にぶーっと頬を膨らませたが、ルヴィカは諦めたようにため息をつくと立ち上がった。
「わかったよ!今から行ってくるよ」
ルヴィカはそう言うと、部屋から出ていく。
「さて、ルヴィカもいなくなったし。聞きたいことがあるんだろ?」
ファリスの言葉にシャロンがキョトンとしたが、アンリは頷く。
「よくわかりましたね」
「だと思ったんだ。ルヴィカの事だよね」
「はい。…ルヴィカの両親は?」
ファリスは少し悲しそうな顔をすると首を横に振る。
「死んだよ、二人ともね。…五年前に事故があってね。その時に」
「事故?」
「ルヴィカの両親はこの街でも有数な建築家でね。富豪の家を建てる際に、建物が崩れてその下敷きになってしまったんだ」
「そうなんですか…。でも、どうして…」
アンリはそう言って黙る。
察したファリスはため息をついた。
「事故で死んだのに何故、人殺しと呼ばれているのか…って?」
「はい」
「その事故で建築に関わっていたたくさんの人が死んだんだ。そのせいでルヴィカの父親は人殺し呼ばわりだよ。設計が悪かったって」
「事故なのに…そんな…酷い」
シャロンの言葉にファリスは頷く。
「そうだね。でも遺族は怒りの矛先が必要だったんだ。それにその怒りに拍車をかけた者もいる」
ファリスはため息をついた。
「ルヴィカを苛めた悪ガキたちの中にローエルと呼ばれてた男の子が居なかったかい?」
少し考えた後、アンリは頷く。
「いましたね…。リーダーぽい奴」
「そう、その子。あの子の父親、ロナエが設計ミスだって言い出してね。ロナエはルカのライバルだったし」
「ルカ?」
「ああ、ごめん。ルヴィカの父親なんだ。…当時はロナエよりもルカの方が評判がよくってね。嫉妬も合ったんだろう、死んだ後に評判を落としてルカが造った建物は全て壊すと言い出したんだけど、それに僕は反対してね。ルカの建築物は安全だと示すために、この家に無理矢理転がり込んだんだ。ルヴィカも放っては置けなかったし」
そう言ってファリスは立ち上がるとテーブルの上を片付け始めた。
その瞬間、ルヴィカが戻ってきた。
きっと、話はこれでおしまいと言うことなんだらうろう。
「片付けてきたけど」
「お疲れさま。…じゃあ、アンリとシャロンに部屋を案内してあげて。で、その後、シャロンは先に風呂は行ってきてねー」
「お前はオカンか」
ルヴィカは呆れたように言う。
「じゃあ、アンリ、シャロン。行こうぜ」
「わかった」
「お願いします」
アンリは立ち上がると、ため息をついた。
「なんとかしてやれないかな…」
「え?」
不思議そうな顔をするシャロンにアンリは苦笑した。
「何でもない、独り言」
とりあえず、もう少し一人で考えてみるか。
アンリはルヴィカに何をしてあげられるのか頭を悩ませる。