ファリス
ルヴィカに連れてこられたのは、街の高台にある塔のような造りの家だった。
「ここが、おいらの家」
「素敵なところに住んでるね」
シャロンの言葉にルヴィカは照れ臭そうに笑う。
まるでお伽噺に出てきそうな塔に住めるなんて、夢のようだとシャロンは思った。
「おいらの親父が造ったんだ。…初めて造った家なんだってさ」
「へぇー、お父さんって凄い建築家さんなんだね」
「…おいらはそう思ってる。街の奴らはそう思ってないけど」
ルヴィカは吐き捨てるようにそう言うと扉を空けて中へと入っていった。
シャロンは困ったように首をかしげてアンリの方を見る。
「…アンリ、何してるの?」
アンリは壁を触りながら、唸っていた。
正直、ちょっと怖い。
「いや、何でもない…。んー、凄いな…」
「何が凄「またこんなに汚してきて今日は何されたんだい!?」
扉の向こうで男性の声がシャロンの声をかき消す。
二人は顔を見合わせて、中へと入る。
そこには、縮こまるルヴィカの前で仁王立ちしている守護者の証であるローブを身に纏った男がいた。
「…あの…」
アンリが恐る恐る声をかけて見ると、男が凄い形相でこっちを睨んできた。
「貴様か!うちの子を苛めたのは!!」
「はぁ!?」
アンリが抵抗する間も無く、男に首を絞められる。
「まだ十歳なのに大人が苛めるなんて卑劣だと思わないのかっ!」
顔が真っ青になってきたアンリを見て、シャロンとルヴィカが慌てて止めに入る。
「ちょ、アンリに何すんのよ!」
「ファリス、違うんだって!!その人は助けたくれたんだ!」
ルヴィカの言葉でピタッとファリスと呼ばれた守護者が動きを止めた。
「え?」
「だーかーらー!この人はおいらを助けてくれたの!!」
ファリスは少し固まった後、慌ててアンリを放した。
「うぇぇええええっ!?」
ファリスの絶叫が塔に響くのっだった。
「全く、ルヴィカは。お客様を連れてきたならそう言わないと」
「言おうとしたら、説教が始まったんだろ」
騒ぎが落ち着くと、アンリとシャロンは食堂に通されると料理が振る舞われた。
ファリスは文句を言いながら料理を次々と運ぶ。
「いやぁ、本当すみませんねぇー」
ファリスはにこにこ笑いながら、大きな鳥の丸焼きをテーブルにドンッと出す。
「そんなのよくいきなり作れるな」
「ふふん。僕をなめないで欲しいね。いつか、ルヴィカが友達を連れてきたときのために用意していたのさっ!」
「はいはい」
ルヴィカは適当に流すと、野菜のスープをすする。
アンリはそんな二人を見て、思わず笑みをこぼす。
それに気づいたシャロンが首をかしげた。
「どうしたの?」
「ん?…ああ、なんかルヴィカ達を見てると昔の俺と師匠をみたいで、懐かしいなって思ってさ」
「ふぅん?アンリも結構生意気だったんだね」
「まぁな。最初の方は師匠の優しさが受け入れられなくて、反抗してばっかりだったからな」
「そっか…」
アンリとシャロンの会話を黙って聞いていたファリスが最後にタルトを置いた。
「これが最後。フルーツタルト自信作なんだ。たくさん食べてね」
「すごーい!」
「うまそう!」
そこで二人の会話は中断されてファリスの料理を頬張った。